第31話
さて、ズウォレス軍の抱えている問題は多岐にわたるが重要なものは兵士の練度であろう。
兵士の数が足りないがために民間人からも兵士を徴兵する必要があるのだが所詮は民間人。
正規兵と比べれば大きく劣る。
「で、これか」
「そうだ」
シセルとフロリーナが見ているのはだだっ広い広場で槍の訓練を受ける子供や女性の姿だった。
弓を引くだけの筋肉も無い力のない彼らを少しでも戦力にしたいのなら、確かに槍は有効なのだろう。
「どんな状況でも彼らを守れるとは限らないからね。備えをしておくのさ」
「まあ当然か。正直思うところはあるけどな」
シセルからしてみればこの光景は見たくなかった。
子供には元気いっぱいに遊んで、笑っていてほしかった。
「さて、次に行こうか」
「これはまた……なんというか」
続いてシセルとフロリーナが来たのは畑。
だが栽培されているのは麦でも野菜でもない。
細長い柄の先に小葉が手のひらのように伸びる植物。
シセルが戦いの前に使っていたこともある大麻だ。
「用途は多岐にわたる。服に包帯に薬に……今後は鎧にも使おうと考えている」
「鎧に? ただの布を使うつもりか?」
「ただの布ではないがな。実は先日の戦いで鹵獲したベルトムント兵の鎧を色々調べた結果、なんと布が使われていた。膠を塗って何枚も重ねて防御力を上げているようだ」
「それをここでも作ると?」
「その通り。金属を加工するよりも安価にできると踏んでいるんだがな」
どうやら彼女は有用な物なら敵のやる作戦や物も見境なくまねるらしい。
実に合理的な考えだ。
「さて需要が増えそうなんだが……これ以外にも育てておかなきゃならない植物がもう一つあってな」
「なんだ?」
あれだ、とフロリーナが指さす先にあったのはなにやら玉のような物が先端に付いた植物。
「何だあれは?」
「芥子だ。大麻よりも強いと言われている薬だな。鎮痛と恐怖心を抑える薬として使おうと思ってな。ただ手間がかかるし量が少ないのが悩みどころだが」
「これが芥子か。ただのそこらへんに生えてる花と変わらんな」
阿片の原料になる植物。
シセルも実物を見るのは初めてだったが……依存性が高い薬の一つ。
大麻もそうだがおいそれと使えない。
「必要とあらばシセル、貴方に処方しよう」
「俺を薬漬けにする気か?」
「それもいいかもしれないな。どうにもシセルは心が弱い。そこだけが残念でならないよ」
残念そうにそう呟くフロリーナを見て、シセルも肩をすくめた。




