第30話
翌日午前、メラント島北部にて。
メラント島の北部は以前より開拓が進められており居住区域に家畜小屋、畑などが多数存在している。
そして現在フロリーナとシセルは居住区域にある建物の一つに来ていた。
「これでは駄目だな。体積が大きすぎるし、なにより重い。容器が陶器というのもな……」
「厳しすぎないか?」
黄金色の髪をかき上げ、困り顔の食料担当の女性を見ながらフロリーナは落胆の息を吐いた。
建物の中に並べられたいくつかの食物について。
「油漬けの魚、塩漬けの魚、干した肉……どれも既存の保存食だ。新しい物を作れと言ったんだよ私は」
フロリーナは駄々をこねた。
「そうは言っても難しいだろう? フロリーナの要求を完全に満たす物なんて」
フロリーナは食料担当の人間に対しこう命令していた。
『新しい携行食料を作ってほしい。まず当然だが腹をある程度満たせるものであること。火を使わず食べられること。野菜を入れること。塩気を抑えること。個人で多く持ち運べること。短期間で大量に製造できること。費用を安く済ませられること。あとは……』
これからも無限に湧いてきそうなフロリーナを制したのはブラームだったが、その後シセルにブラームは愚痴を延々と言っていた。
「要求が高すぎる。こだわりたいのも分かるが妥協はしろ」
「だがな……」
「一つ貰うぞ」
シセルは食料を用意してくれた困り顔の女性に許可をもらって、一口食べてみた。
塩気がかなり強く思わず顔をしかめる。
たしかにどれも既存の保存食とかわらないものではあるが……
「これが駄目な理由がわからんな。保存は効くし、腹も満たせる」
「攻めていくにあたって食料に武器の補給も考えなければならないだろう? だが補給係に人員を割けるほど我々に人的余裕はあるか?」
「……ないな」
「ただでさえ数が少ない我々が炊事の煙で位置を知られて囲まれたらどうする?」
「う、ううん……」
「野菜を食べないと病気になる。塩気の摂りすぎもな。それは古くから長期航海する船乗りたちが証明している。それの治療は? 現地でやるのか? 薬も医者も居るとは限らない状況でだれがやるんだ?」
「お、おう」
フロリーナの言葉に屈したようで癪だがそう考えれば確かに必要になってくる。
なのでフロリーナの要求も理解はできるのだが……
「数日でできるなら苦労はせんだろう。ある程度猶予はあたえないとな」
「敵がそれまで待ってくれるならな」
痛いところを突かれた。
「細かく砕いて混ぜてみたらどうだ? 肉も野菜も全部。野菜は少し乾燥の難易度が高いから乾燥させた香草と胡桃なんかを混ぜて」
とりあえずシセル自身も意見を述べてみる。
「粉にするのか? 食べるのに苦労しそうだが」
ーーええい不満の多い奴め。
「なら固めればいい。バターで」
シセルがその場で思いついた即席の案にフロリーナと食料担当の女性は困惑していた。
「ば、バター……」
「バターですか……」
「バターだ」
ーー完成したらいの一番に食べに来よう。
シセルは思いついたことを他にもいくつか提案して、シセルとフロリーナは建物を後にした。




