第28話
日暮れのメラント島南部。
ベルトムント軍を退けたズウォレス兵……正確に言うと森の地下に隠れていたズウォレスの民間人達。
彼らは海岸のそこかしこに波にうたれて転がる死体の処理と負傷兵の手当をしていた。
死体を適当な大きさに切り分けて籠に入れて海に沈め、魚をおびき寄せる撒き餌代わりにでもなってもらおうというもの。
まあ大半は普通に海へと投げ込むわけだが。
「うぇ……」
「ただでさえ血で砂が汚れてるんだ。吐くのはやめてくれよ」
片手でシセルの背中をさすりながら片手で器用に死体から武器などを回収していくのはブラーム。
他のズウォレス人も死体の処理と一緒に武器の回収をしているが積み上げられた武器や防具はかなりの量になった。
使い物にならない物を除外するにしてもズウォレス軍の武装を強化できるのは間違いない。
そんな風に死体の処理をしている最中ではあるが、薬の切れたシセルは吐き気を抑えるので精一杯だ。
「疲れただろうがもうしばらく踏ん張ってくれ。お前は見張りを頼む。こっちの処理は俺が指示を出す」
「ああそうさせてもらうよ。ここじゃ俺は役に立たないからな」
「フロリーナは森の地下に居る。他の兵士たちが手当と休息をとっているからお前も交代が来たら行けよ」
「ああ」
夜、フロリーナが居る森の地下へと来たシセル。
そこでは焚火の灯りを頼りにフロリーナを含むズウォレス人達が兵士の手当をしていた。
通気口代わりに開けられた縦穴は板が外され新鮮な空気を地下に取り込んでいて、外の景色も見えるようになっている。
「来たかシセル。どうだ? 傷は無いか?」
「無い、強いて言うなら手のひらをカキ殻で切ったくらいだ。それにしてもいつの間にこんな地下を作ったんだ?」
「5年の間にベルトムントの目をかいくぐって密かに作らせた。未完成ではあるが準備はある程度までは出来てたのさ」
シセルは軽い口調でそう話ながら負傷兵の隣に腰掛ける。
地下とはいえ大人二人が余裕をもって行き来できるほどの幅と人が背を丸めて通れる程度には高さと広さがある。
ここでシセルが腰掛けても迷惑にはなるまい。
「まあその手のひらの傷とやらには唾でもつけてもらうことにして……少し話があるから後で海岸にでも行こう」
「?? ああ、分かった」
一体何の話だろうか?
笑いながらそう言ってきたフロリーナに視線を向けるが、彼女はもう負傷兵の手当に集中している。
だがまあかなり時間がかかると見える、少しだけ目を閉じよう。
思えばまともに休息をとったのはかなり前だ。




