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元弓兵は帰れない。  作者: 田上 祐司
第一章 炎と灰の戦い
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第25話

「……静かになったな」


「そのようです」


 船倉の中に隠れているクラウスだったが異様なまでに静まりかえった状況に怯えていた。


 今クラウスの周りに居るのはたった一人の護衛だけ、他は全て外へ敵を狩りに行ったまま、帰ってこない。


 先ほどまで聞こえていた敵兵を追いかける長靴の音も怒号も聞こえてこない。


 聞こえてくるのはかすかな波の音のみ。


「伝令はどうなったのだ? 届いたのか? どうなのだ?」


「分かりません、外の状況をみて参ります」


「まて! 私を一人にするな!」


「し、しかし……」


 船倉から出ようとした護衛になさけなくすがるクラウス。


 だがどうしようもない、外の状況が分からなければ次の一手が打てないのだから。


「外の状況が分からなければ逃げることも攻めることも出来ません。それにクラウス様、貴方は指揮官です。指揮を執らないといけないお立場にあられるはず。ここに閉じ籠り続けることは良くありません」


「わ、分かった。死ぬなよ。必ず戻ってこい」


「ええ勿論」


 仕方なく外へ出るのを許したクラウス。


 そのまま引き留めていれば、少なくとも少しの間だけでも護衛は死なずに済んだだろうに……


「がっーー」


 上に登る階段に護衛が足をかけた瞬間、短い悲鳴と共に彼は膝から崩れ落ちた。


 そして動かなくなった護衛の額には太い矢が……


 ーーこ、殺されてる!?


 叫びたくなる声を押し殺し、クラウスは階段の方へと視線を這わせる。


 ゆらりゆらりと誰かが足音を消しながらやって来ているのが影で分かった。


 ーー敵だ!! 隠れないと!!


 近くの食料をおいてある木箱の裏、そこに素早く隠れるクラウス。


 震えだした膝はそのままに、ガチガチと音をたてそうな口には親指を突っ込んで黙らせた。


 ゆっくりと敵が近寄ってくるのを背中で感じながら、クラウスはひたすら敵が過ぎ去るのを神に祈りながら待った。


 大丈夫だ、指揮官がこんな場所で指揮もとらずに震えているなんて思うわけがない、きっと自分は助かる。


 そうクラウスは信じていた。


「あああああ腕が! 腕がァッ!!」


 白刃が一閃。


 クラウスの腕は木箱もろとも、剥き身の剣で無理矢理叩き切られてしまった。


「お前が指揮官か? 前線の兵士をほったらかしてこんな所でのんびりしてる暇があるとは随分と余裕じゃないか」


 痛みに顔をしかめながら剣の持ち主に目を向ける。


 元は黒髪だっただろう長髪には砂や海藻が大量に纏わりつき、革の鎧にたっぷりと水気を帯びた男の姿。


 活力の無い青い瞳にはただクラウスの姿だけが映る。


「じゃあな。悪く思うなよ」


「や、やめろ!!」


 クラウスの叫びは空しく、男は彼の心臓めがけて剣を突き立てた。


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