第24話
シセルは戦闘前にブラーム達に隠れてある薬を使っていた。
適当な葉っぱで包んで火をつけて吸えば恐怖心が薄れ、勇気が湧いてくる。
敵の矢も槍も、恐怖することがなくなる。
無敵になったような、そんな感覚になる。
「な、何なんだ? 敵は何処にいるんだよ!?」
「知らねぇよ! とにかく探せ、近くにいるはずだ!」
だからそう、きっと今のシセルの前では敵は敵でなくなる。
「なんだ? 何か動いて……ぎゃッ」
喋ろうとしたベルトムント兵が盾を持つ腕を射抜かれた。
「どこだ? どこに居やがる」
最初は散発的に兵士が射抜かれるだけにとどまっていたが負傷者が特に増え始めたのは指揮官であるクラウスの元へと兵士が指示を求めに行った時だった。
ベルトムント兵の中には敵の姿を見た者も居たが、応援が駆けつける前に逃げられ、目標となる敵はきれいさっぱり消えてしまっていたのだ。
これには指揮官のあるクラウスも……
「早く探し出せ! どう考えても私が狙われているではないか!! おのれズウォレス人め!」
島に到着する前の臆病さを取り戻したクラウスは船の船倉に身を隠し、守りを固める兵士達に手近にある物を投げつけ始めた。
「そうだ! 伝令を出して全軍を一旦退却させろ! 敵から身を守るんだ!」
「た、退却ですか?」
ーー敵の位置が分からなくて襲われるかもしれないのに……誰が伝令役をやると思ってるんだこいつ。
正直なところ不満しかなかったがそれでも指揮官。
命令は遂行しなくてはいけない。
この命令を受け取った兵士は致し方なく伝令を届けるために走った。
森に入ろうとした矢先に、彼は頭を射抜かれたが……
同時刻、メラント島の森の中。
「やっぱり隠れてやがったな!! 固まれ! お互いの身を守るんだ!」
ベルトムント軍は隠れていたズウォレス兵に攻撃されていた。
弓兵が木の上から、剣や槍で武装した兵士達が地面から現れベルトムント軍に攻撃を加え始めたのだ。
「穴を掘って中に入って隠れてたわけか、罠だと偽装させてたわけだ。やりやがる」
「感心してる場合か! こっちがすりつぶされるぞ!」
彼の言う通りだった、ズウォレス兵の放つ矢はそのほとんどが盾で防がれていたものの隙間をすり抜けた物や盾をたまたま貫通した物、もしくは頭に矢を受けながら徐々に数を減らしていっている。
「くそ! 囲まれてる!」
「後方の守りが薄い、そこをぶち抜くぞ!」
ベルトムント兵の一人が囲いの薄い後方へと目を付け、他の仲間と共に一斉に殺到。
多くの犠牲を出しながらもズウォレス軍から必死に逃げるベルトムント兵達。
彼等が後悔するのに、大した時間はかからなかった。




