第23話
「居たぞあそこだ! 落とせ落とせ!!」
突如として樹上から飛来した矢がベルトムント兵を襲った。
とはいっても盾で防がれ殆ど傷は与えられていないのだが……
「猿かあの野郎!?」
「槍を投げろ! 逃がすな!!」
そうしてベルトムント兵が騒いでいる間に樹上に居たヤドリギの塊が空中に身を躍らせた。
いつのまにやら掴んでいた縄を掴み、木を取り囲む兵士達を抜け、地面に華麗に着地する謎の人物。
「追え! 逃がすな!」
怒り狂ったベルトムント兵には目もくれず、その人物は明後日の方向へと走り去った。
「何なんだあいつは……森の精霊か?」
「さあな、だが敵なのは間違いない。注意しろよああやって奇襲してくる可能性が高いからな」
辺りに視線を移すが確かに茂みや木の上など隠れられる場所など沢山ある。
ズウォレス兵が潜むにはうってつけだろう。
メラント島南部、船着き場。
「とりあえずこのズウォレス人が奪った船どうするよ? 壊すか?」
「この島を制圧したら船も一緒に本国に連れて帰るみたいだ。大事に取っとけ」
ズウォレス軍がホルウェ港から奪取した船が大量に係留されているここでは残ったベルトムント兵が指揮官であるクラウスの護衛と船の護衛の為に幾ばくかの兵士が残っていた。
「なるほどな。ところで大丈夫なのか? ここに俺達が残っててよ」
「大丈夫じゃないか? 多分ーー」
「おいどうしーー」
話をしていた二人だったがその会話が最後まで続くことは無く、強制的に止められた。
こめかみに突き刺さった矢によって。
ーーどれだけ呑気なんだこいつら。敵地に上陸しといておしゃべりなんぞしやがって。
二人が射抜かれた場所から少し離れた場所にある岩場、そこに大量の海藻やカキ殻をくっつけた男が居た。
シセルだ。
シセルはその長い髪の毛、着ている鎧などに膠などの接着剤を塗り、そこに木の枝や、今回の様に海藻などをつけて偽装を施していたのだ。
先ほど森の中でベルトムント兵を襲撃したのもシセルだ。
(目標の人間は……どこだ?)
シセルが探しているのは護衛が多い場所。
そうまでして守るのなら指揮官が居る可能性が高いと考えての行動だった。
仮に指揮官が居なかったとしてもいざとなった時に船を使って逃げられるようにしておける。
十分シセルが単独で動く理由にはなる。
ーー急がないとな……吐き気が止まらん。『薬』が要る。
震え始めた手に無理やり力を込め、シセルは用心深く周囲を索敵し始めた。
とある暗い場所にて……
「敵は森の中に展開してる。恐らくは北の住居跡まで向かうはずだ。さてどうする?」
「我々は待機だ。『入り口』はしっかり見張らせておくように」
「分かったよフロリーナ」




