第22話
太陽が頂点に達する頃、ベルトムント軍は多数の犠牲を出しながらもなんとかメラント島へと上陸した。
出鼻を挫かれた彼らではあったものの、上陸してしまえばこちらのもの。
弓を主兵装にするズウォレス軍は盾と槍で勇猛果敢に突撃してくるベルトムント軍になす術もなく殲滅される。
はずだったのだが。
「どういうことだ?」
「敵は何処に行ったんだ?」
上陸したベルトムント軍は困惑した。
あれだけ上陸前は激しかった攻撃はピタリと止み、弓を射かけてきたであろう場所には人っ子一人も居なかったのだ。
恐る恐る前進した彼等が見たのは切り落とされた枝葉に隠されていたバリスタのみ。
どこにもズウォレス兵の姿は確認できない。
「北部へ向かうぞ、奴等の居住地が存在してるはずだ」
「一旦船に戻って迂回したほうがいいんじゃないか?」
「矢の的にされるだけだ。このまま進もう」
口々にベルトムント兵は意見を述べるが、統一性はない。
まともな判断が出来る隊長達はかなりの数が負傷、あるいは死亡していた為である。
「クラウス様は指揮を執られぬのか?」
「あんな臆病者が先頭に立てると思うのか? いいから進むんだ。俺達にはこれがある、接近戦で負けるものか!」
盾を掲げるベルトムント兵。
反論するものが居ても、彼等は次々と森の中へと入っていった。
「やっぱりどこにも居ないぞ、何処に消えやがったんだ?」
慎重に歩みを進めるベルトムント兵達、隣の仲間と自身の盾で守り合いながら構えた槍で牽制する。
突然の奇襲にも対処ができる構えだ。
「気を付けろよ、罠だらけだ」
「ああクソ、落とし穴に吊り木までありやがる」
森の中へと進めば進む程、ズウォレス軍が仕掛けたと思われる罠が散見された。
枝の先を尖らせ地面に突き刺しただけのものから紐に引っ掛かれば上から巨大な丸太が落下する類いの罠もある。
だが正直なところ、これらの罠は殆どベルトムント兵には通じることはないと思われる。
「見え見えの罠ばかり張りやがって、俺達を舐めてるのか?」
「相手は素人なんだろうな。随分雑な作りの罠が多い」
ズウォレス兵が仕掛けた罠はかなりの頻度でまともに作動しないようなものばかりだ。
落とし穴は隠し方が雑だし、木のしなりを利用して敵を攻撃する罠も他の木に邪魔されて威力が半減してしまうだろう。
「だがまぁ、油断するなよ」
「当たり前だ」
気を引き締めて周囲に目を配るベルトムント兵、そのうちの一人が木の上にある奇妙な物を見つけた。
「おい。なんだあれは?」
「あ? ただのヤドリギだろ。少しデカいがーー」
枝の上を見たベルトムント兵に向かって風を切る音と共に矢が放たれた。




