第21話
船がメラント島に近づくにつれベルトムント軍を襲う矢は増えていった。
海の上でバリスタを防ぐためにとにかく船の縁に身を隠していた彼等だったが距離が近づくにつれて被弾する兵士は増えていき、負傷者、戦死者合わせ300名を越えていた。
そして負傷者が増えるにつれ兵士たちは気が付いたことがある。
不思議なもので何故か狙われるのは指示を出していた隊長や兵士達の兄貴分のような立場の人間ばかりが狙われ、血を流していたのだ。
「痛ェ……痛ェよお……」
「包帯を寄越せ! 早く止血するんだ!」
盾を装備していた兵士だったが負傷したのは守り切れない足や盾から出ていた体の部位のどこか。
治療は出来なくも無いがまともに戦えなくなるのは間違いない。
「返しが付いてる! 押し出すから堪えろよ!」
「ええいクソが!! クソッタレのズウォレス人め!!」
刺さった矢は返しが付いている物が何本か混じっていて、見分けのつかないベルトムント兵は治療するためにわざわざ貫通させて体内に残った矢尻を取り除くことになった。
そして先ほどまで普通に言葉を交わしていた仲間が痛みに顔を歪ませているのを見て周りに居た兵士たちは不安に駆られこう考えるようになる。
自分たちもいずれこうなるのでは?
血を流し、無様に叫びながら、仲間の足を引っ張るお荷物になるのでは?
一方、メラント島のズウォレス軍……
「シセル。どれだけ訓練すればそんな技術が身に付くんだ?」
困惑した表情を浮べながら矢を放つブラームがシセルにそう話しかけてきた。
地面に矢を突き立て敵に向かって矢を射るのに集中しているシセルからしてみれば戦闘中の会話など迷惑極まりない。
「黙って仕事しろ、気が散るだろうが。俺はそろそろ側面に回り込んで戦うからここは任せるぞ」
「敵前逃亡か? 重罪だぞシセル」
周りを海に囲まれているのに一体どこに逃げようというのか?
「逃げられるかこんな状況で。ブラーム、お前の雇い主からの命令だ。やり方は任せるから指揮官狩りに努めろとな」
「フロリーナが? 本当か?」
長射程で、かつ精度も今居るズウォレス人の中で最も強いシセルはそのまま他の兵士と共に戦わせるよりも遊撃手として自由に行動させた方がいいとフロリーナは判断していた。
「本当さ。というかお前こそ雇い主を守ったらどうだ?」
「ああちょっと護衛はお休みだ。俺も貴重な弓兵だからな。前線にでないと」
自分の身よりも前線が大事か、シセルは心のなかで感心した。
「まぁ無茶はするなよ。行ってくる」
「ああ、死ぬなよシセル」
革鎧を着込んだシセルの胸を、ブラームは叩いて見送った。




