第20話
「おい矢の射程範囲はまだ先のはずだろう!?」
「石だ! 奴等投石器を持ってるぞ!」
クラウスの乗る船が騒然としていた、彼らの頭上から石の雨が降り注いだからだ。
その威力はすさまじく、甲板に使われている分厚いオークの板が陥没あるいは貫通してしまっている。
当然、ベルトムント軍の誇る盾も人の頭よりも大きい石の前には意味を成さない。
「中に入れ! 櫂を出して速度を上げろ!!」
「なかなか効果があるな。寄せ集めの投石器にしては上出来だ」
島のすぐ近くにある森の中で投石器のすぐ横で石の装填を手伝うシセル。
大小、種類も様々な投石器、それを扱うのは元ズウォレス軍の兵士達だった。
海上に見える敵船に向かって投石器を用いて攻撃を仕掛けている。
これで撃沈する船は少ないだろうが、帆柱にあてられれば航行が困難になるだろう。
「船の数は……大型の輸送船が6隻に中型の船が50隻は居るな。結構な大所帯だ」
攻撃しながら森の隙間から見える船団、掲げる旗が帆柱ごと折れたのを見て何人かのズウォレス兵達は歓喜した。
彼等の威光地に落ちたり、と。
「さて、そろそろ俺たちの出番だな。行ってくる」
「任せたぞ」
シセルが取り出すのは長弓、長年使いこんできたそれは手によくなじむ。
弦を鳴らしながら他の仲間と共にシセルは海岸へと向かった。
「『ズウォレスの黒狐』様に続け! 俺達に勝利以外は要らないぞ!」
「だから違うって言ってるだろうに……まあいいか」
一方ベルトムント軍。
「無理だ! 船の上に居たら狙い撃ちにされるぞ!」
「こっちの弓は届かねぇ! 盾で防げ!」
石の雨を潜り抜け、ようやく島へと上陸しよう。
そんな時にズウォレス軍は新たな兵器を使いだした。
森の中に並べられたバリスタである。
他国と比べて小型のそれだが、ベルトムント軍の盾を貫く程度には威力がある上、とにかく数が多い。
「出来る限り伏せろ。そうすりゃ当たらねぇ」
船の縁に身を隠して、接岸するまで待てばいい。
そう思っていた矢先の事……
「ぐがぁっ!?」
短い悲鳴を上げながらのたうち回る兵士、この船に乗る兵士を率いる隊長だ。
「なんだ?」
他の兵士が彼の姿を見てみれば一本の矢が隊長の腰に深々と突き刺さっていたのだ。
刺さっている方向から見るにメラント島の方角から放たれたもので間違いなさそうだが……
ーー嘘だろ? 角度から察するにあの森だ……あんなところから正確に射れる人間なんて。
その時脳裏に一人のズウォレス人の異名が思い浮かんだ。
ーー『ズウォレスの黒狐』か……!? 奴がここにいるのか!?
思い描いた悪夢は、やがて現実となった。




