第42話
ズウォレス軍と正面から相対したシェフィール軍は黒布隊による奇襲で指揮官を失い総崩れとなっていた。
態勢を立て直そうと後退を続けるシェフィール軍に対し、ズウォレス軍の指揮官、ブラームは更なる追撃をかける。
「矢を放ち続けろ、加減はいらん。同時に槍兵も前進しろ」
好戦的な瞳をしながら指揮を執るブラームに対し、近くで見ていたローガンは苦言を呈した。
ここまでする必要があるのか?と。
「ブラーム、いくら何でも逃げる者に追撃をかけるのは駄目だ。これでは戦争を仕掛けに来たと取られてしまう」
「残念ですが必要な事です。相手の戦意を削いでおかねば」
ローガンの言葉に対し、ブラームは聞く耳を持たなかった。
だがこれは周囲に敵しか居なかったズウォレス人からしてみれば当たり前のこと。
むしろ何故ローガンがブラームを止めてくるのか理解が出来ないでいた。
死体を踏み越え、大地を血で穢し、落ちた矢を拾い、尚も進む。
「向かいますよ。我らと共に首都にてお姿を民衆に見せ宣言するのです。『エルフィーこそが悪である』と」
「…………」
黙り込んでしまったローガンに心の中で舌打ちをしつつブラームは前に視線を向ける。
まばらに生えた草を踏み散らしながら進み続けるズウォレス軍。
そんな彼らのもとへ側面から馬で接近してくる者達がいた。
黒い布を身に着けた男達、黒布隊の男達だ。
「報告です! この先に2部隊……合計6千の部隊が待ち構えています! このまま先に進んでしまうと両翼から挟み撃ちにされます」
「総員後退! 横陣を展開しろ!」
大声でそう告げる黒布隊の男、それに応じたブラームは後退を指示した。
横に大きく広がりながら後退するその姿は敵から見れば異様に映っただろう。
「さてここから時間稼ぎと行きましょう。なんならこのまま海まで逃げ帰ってもいい。補給も楽にできる」
ブラームとしては正直シセルや黒布隊によるエルフィーの暗殺が成功するとはあまり考えてはいなかった。
成功すればよい、程度の考えではあるが最低でも敵をかく乱し混乱させることは出来るだろうとふんでの行動。
「黒布隊も一旦戻ってこい。休息をとれ」
「ありがたい。久しぶりに故郷の飯が恋しくなってきたところです」
「残念だが保存食の類しか持ってきてない」
ブラームの言葉を聞いた黒布隊の男は大きく肩をおとした。




