第41話
単独であったにも関わらず、エルフィーはかなりの粘りを見せていた。
現在執務室の中で鮮血を流しながらまだ立っているのだから。
「ここで仮に俺が負けたとしても、仲間がきっとお前を殺す。なぜそこまで粘る?」
シセルは弓を引き絞りながら、目の前で長剣を構えて立っているエルフィーに問いかける。
だがエルフィーは立っているとはいってもかなりの深手を負っている。
腕、肩、足、脇腹に矢が突き刺さりそこから大量の血を流し執務室の床を血で赤く染めていく。
流れる血から察するに放っておいてもいずれ息絶えるだろう。
「どうせ死ぬんだ。大人しくやられたらどうだ?」
「死ねん。私はまだ死ねんのだ」
正直なところ、シセルは目の前の男がなぜこうも粘るのか理解が出来なかった。
命乞いでもするのかと思いきや長剣を抜いて抵抗し、こうして死に瀕して尚くじけない。
「私は王に、この国の王になるのだ。ならねば……ならんのだ。国民の為にも」
「ああなるほど、お前の私欲の為か」
「腰抜けのローガンでは国が衰退する一方だ……だから」
だから戦争を各地に仕掛けて、軍需で自国の発展を期待した。
エルフィ―は血まみれの手を服で拭いながらそう告げた。
「戦争を好んでやるような国家が発展するとは思えないがな」
これ以上は聞く価値もない。
そう判断したシセルは引き絞った矢をエルフィー目掛けて射かけた。
「……シェフィール……よ……」
刹那、心臓に突き刺さった矢にエルフィーは倒れた。
「どこの国にもアンタの居場所はないさ」
「おいシセルさん急げ!! 周りから兵士が集まってきてる!」
エルフィーを殺した直後、黒布隊の男が部屋の中に突入してくるのと同時にそう叫んだ。
勝利の余韻に浸る間などはないようだ。
「外に馬がいる! 逃げるぞ!」
「ああ、分かった。ちょっと待ってろ」
シセルはエルフィーの首を急いで切り取ると白髪交じりの茶髪を掴んでその場を後にした。
シセルは庭にいた馬に跨り、兵士達に追いかけられつつも建物の細い隙間などを活用し他の仲間たちと共に散開、シェフィールに上陸したズウォレス軍と合流するために移動する。
「シセルさん南に向かってくれ! どうせ騒ぎになってるはずだ! ブラームさんも来ているはずだ!」
「分かった!」
腰にエルフィーの首を縛り付け、シセルは馬の腹を強く蹴る。
目指すはブラームの居る南だ。




