第39話
館の中に再侵入するとエルフィーの護衛と思われる者達が机や椅子を積み上げ、その後ろに隠れて防御の構えを取っていた。
「この薄汚いズウォレスの豚共が!! かかってきやがれ! 串刺しにしてやる」
机の後ろに隠れながら護衛達は館の中に入ってきたシセルに対し勇ましく罵声を投げかける。
机で出来た壁の後ろに隠れている護衛は3人、やたら必死に守っているところを見るに、エルフィーがこの先に居ることは間違いないだろうが……
──1人は殺せるな。
机と椅子を無造作に積み上げた護衛達、それに対しシセルは長弓を構える。
彼等もそうだがシェフィール人は総じて考え方が甘い。
戦地であろうがお構いなしに冗談を言いながら大声で笑い、金に目がくらんでやすやすと命を危険にさらす。
そんな人間達に、過酷な戦場ばかり渡り歩いてきたシセルが負ける道理などない。
「かっ──」
「おいジェームズ!? 嘘だろ!?」
シセルが目をつけたのは積み上げられた机の壁に僅かに出来た隙間。
シセルはその狭い隙間に向かって矢を射かけた。
ちょうどシセルの方を覗こうとしていたのだろう、放たれた矢は護衛の左目に侵入、そのまま後ろに矢尻が突き抜けた。
「シセルさん協力するぞ! お前等斧だ! 斧持ってこい!」
中庭の掃除が終わったのだろう、黒布隊の男達が館の中に次々と雪崩れ込んでくる。
手に手に斧やそのほかありあわせの破砕道具を持って、積み上げられた机を叩き割って無理やり防御を打ち破る。
そうして出来た突破口に向かってシセル達は突撃した。
「お前たちはそっちに回れ! こっちは俺達でやる!」
「上に登れ! 急げ!」
もはや暗殺などという生ぬるい状況では無かった。
怒号と絶叫が館の中に反響し、剣戟の音が鳴り響く。
戦場もかくや。
「エルフィー様をお守りしろ!」
「どけ!!」
階段を駆け上がり2階、護衛達が必死の形相で守っている部屋が目に入った。
──絶対あそこだ。あそこにいる。
部屋の扉の前で立っている護衛を射殺した後、シセルは扉を蹴破る。
「ようエルフィーさん。アンタの首を頂戴する」
ようやくたどり着いた部屋の中、そこに彼はいた。
エルフィー・アシュフィールドがそこに立っていた。
「お、おのれ……」
エルフィーは無駄に装飾の付いた長剣を抜き放ち、殺そうとしてくる黒布隊の男達やシセルを威嚇してくる。
だが多勢に無勢、そんな脅しは無意味だといえる。
「私を殺しても戦争は止まらんぞ!」
「やってみればわかるさ」
シセルは震える手を離し、矢を解き放った。




