第37話
翌日の朝、シセルは行動を開始した。
まず最初に行ったのは放火だ。
「エルフィー様、中庭に火が放たれました。火元は外から放たれた火矢と思われます」
「火矢だと? 一体何本撃ち込まれた?」
「一本です。火は既に消し止めましたので大丈夫です」
執務室の中で報告を受けたエルフィーは眉根を寄せた。
──たかだか一本火矢を打ち込んでこの館が焼き払えるとでも思っていたのか?
涼しい顔をして報告に来た側近に命令を下す。
「館内に警備を集中させ、外の連中には何かほかに異常がないか探れ」
「承知しました」
どこの誰がやったのかは全く分からないが、恐らくは敵の攻撃、それも陽動の類だろう。
そう考えてのエルフィーの指示だった。
「……ズウォレスの攻撃か。ローガンの居場所も探らねばならんし、証も手に入れねばならん。ええいなぜこうもうまくいかんのだ」
エルフィーのもとへと届けられた報告は頭の痛くなるような物ばかり。
ローガンの暗殺に失敗、肝心のローガンはどこかに姿を消して何処にいるのか分からない。
そして今回の放火ときた。
──ローガンの居場所を突き止め殺さんことには安心は出来ん、証も消えている。
「あの……エルフィー様」
「なんだ?」
「昼食食べます?」
呑気な者も居たものだ。
一方のシセル。
彼はエルフィーの館の中に侵入を果たしていた。
中庭に火矢を打ち込み僅かに注意がそれた後に反対側から侵入したのだが思いのほかうまくいった。
──前に2人、避けていくか。
館の内部は攻められることを想定していない豪華なだけの造り。
だが見張りの数がとても多い。
──矢をつがえるのにかかる時間は二呼吸分、時間が足りん。となれば……
シセルは正面突破を諦め近くにあった空き部屋の中に入った。
小さな窓が1つあるのが見えるここから逃げよう。
木の壁の部屋の中には干し肉や麦の類が置かれ他にも木箱などもある。
どうやら食料庫のようだった。
──とりあえず毒入れとこう。
外を確認した後小窓から外へ出て、迂回する。
「おいなんか音がしなかったか?」
「気のせいだろ。ほっとけ」
近くにいた見張りはどうやら大丈夫らしい。
──どっちかが寄って来てくれれば射殺できるんだがな。
別の入り口を探して、そこから再侵入しよう。




