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元弓兵は帰れない。  作者: 田上 祐司
第一章 炎と灰の戦い
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第19話

 明朝、旧ズウォレス領北方海上輸送路にて……


「敵の総数は!?」


「不明です」


 大きな帆船の上で部下と思われる兵士にがなり立てるベルトムント軍の指揮官クラウス。


 彼はベルトムント王に指示され今回の旧ズウォレス領で起きた反乱を止めるべく軍を率いてメラント島へと向かっていた。


 総数2千人、兵士の割合が少ないことを見越して早急に集められるだけの戦力を率いて進軍したクラウスだったが、彼は小心者。


 船の上で部下を呼びつけては正確な情報を寄越せとがなり立てる。


「装備!」


「主に弓、ズウォレス人特有の長弓と長剣と長槍ですな」


「ズウォレス人が集まっているのは本当にメラント島だけなのだろうな!?」


「それも不明です」


「後方から攻撃されることもありえるのか!?」


「……なくはありません」


「あああああ糞!! 糞!!」


 頭を抱えて船の上に置かれた机を何度も殴りつけるクラウス。


 ーーなんで私がこんな目にあわねばならんのだ!? あの女狐に心を許したのが間違いだった!! いやそもそも王の施策が間違っていたのだ! ズウォレス人を殺しつくすわけでなく軍を解体するだけで留めるなど!


 王に対する反抗や戦場に赴かなければならない不安で頭の中がいっぱいのクラウス、前線に立つのにこれほど不安な指揮官もいないだろう。


「見えてきましたよクラウス様。あまり心配なされることはありません。今回率いてきたのはベルトムント軍の中でも強者揃い、それに……」


「それに、なんだ?」


 クラウスが顔を上げてそう聞き返すと、部下の兵士は目を三白眼にしてこう言った。


「奴らが反乱を起こした街の一つ、パエセスには私の家族が住んでいました。いまだに妻はおろか子供の安否の確認も取れていません。そしてここに集まった兵士も同じです。皆あの反乱で誰か大切な人を失っている」


「あ……」


 黙ってみて気が付いた、クラウス以外は誰も一言も言葉を交わすことなくメラント島に視線を向けながら槍を握りしめている。


「兵の士気も、質も我々が圧倒的に上です。負けてなるものかと」


「……すまない。私だけ取り乱してしまって」


「戦闘が終わった後、皆に酒でもふるまってください。それで問題ありません」


「勝とう。なんとしてでもな」


「ええ、勿論です。さあ中へ、そろそろ敵の矢の届く範囲に入ります」


「あ、ああ。分かった」


 クラウス達の乗る船は2層構造になっている。


 中は主に食料や武器を入れるための場所だが、矢に対して身を守るには十分。


「……臆病者が。お前達、あいつらをどんなふうに殺したい? 俺はやっぱり車輪のーー」


 臆病者のクラウスを船の中に隠した後、部下の兵士はにこやかに周りの兵士に語り掛けようとした。


 だがその言葉は人の頭ほどもある大きさの石によって遮られた。

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