第33話
最初の村を出てからおよそ3日、シセルの目の前にようやく都市が見えてきた。
──なかなか栄えてるじゃないか。
小高い丘の上、シセルは草むらの中に隠れながら下を見下ろしていた。
シセルの視界に入ってくるのはシェフィールの首都、ランブリッジ。
そして見渡す限りの建物の群れ。
赤い瓦の建物が所狭しと並び、石畳の道には露店が並び市民が軽食を売りさばく。
だがそれだけではなかった。
「……これもお前のせいか? ブラーム」
シセルが別の場所に視線を移すと痩せぎすの子供が露店で売られていた果物を盗んで逃げ回っている姿が見て取れた。
他にも金持ちそうな男に集団で群がって遅いかかる少年たちの姿もあった。
これがシェフィール本来の姿である、そう言われれば納得もするが。
「時期が時期か。『黒布隊』の人間の仕業じゃないことを祈ろうか」
改めてシセルはランブリッジに目を向けつつブラームから受け取った地図と見比べる。
──随分としっかりした地図だ。距離に建物の配置、主要な道から細かい路地までしっかりと書かれてる。
さて地図によると北側にエルフィーの館がある。
まずは馬鹿正直にそちらから当たってみよう。
そう考え移動しようとした矢先のことだった。
「動くな。大人しくついてきてもらおうか」
いつのまにやら草むらの周りに3名の男がシセルを囲んでいた。
「……やっと会えたか。とりあえず武器を降ろしてくれないか? 俺は味方だ」
シセルは囲んできた人間に一瞥すらくれることも無くそう言った。
特に警戒もしていない。
「知ってる。けどせめてこちらを見てくれないか? 武器も持ってない」
「……不用心だな」
改めてシセルは声の主の方を向く。
見てくれはランブリッジにいる市民と全く変わらない格好をしているが、腕に付けた黒い布がシェフィール人じゃないことを教えてくれる。
「あんたも弓を隠したらどうだ? シセルさん」
「弓は俺の魂さ」
ズウォレス人としての誇りなどは欠片も無いと見える。
「これから都市に入る。ズウォレス人がよく持ってる長弓なんて持って入ったら怪しまれる。頼むから隠してくれ」
「……分ったよ」
事情があるのはシセルも理解した。
「行くぞ。シセルさんもついてきてくれ」
「ああ」
向かうのはランブリッジの中にあるという黒布隊の拠点。
シセルからしてみれば情報の共有もしたいところだ。




