第32話
翌朝、まだ日が昇りきる前にシセルは出発した。
「じゃあな。また会おうぜ」
一晩ベッドを貸してくれた男に軽く礼を言った後、シセルは首都の方角に向かって歩き始めた。
時間はある程度かかるだろうが、間に合わなくはない。
一面に見えるのは緑の大地。
平地が多くて見晴らしがいい上心地よい風も吹いている。
きっと本当に旅をするのなら気持ちが良いだろう。
──ここを焦土にしない為にも、急がないとな。
次の目標は首都、関所を抜けるのはどうとでもなる。
適当に人の居ない場所に攻撃を加えたあと、報告に行く者の後でもつけよう。
今後の予定を考えながら、シセルは長い道を歩き始めた。
シセルがシェフィールに上陸して翌日、ズウォレスにシェフィールの代表、ローガン・エイマースが黒布隊に護衛されながら連れてこられた。
今回は賓客としてもてなす為、ローガンは拘束の類いは受けていない。
今後のローガンの回答次第ではその限りではないが。
「ようこそズウォレスへ。お会いできて光栄です」
恭しく礼をするブラームがローガンを出迎える。
「お前は確か、フロリーナ殿の護衛をしていた……一体どういうことなのか説明してもらえるな?」
「ええ勿論」
ベニートはなぜこんな事をしたのか、シェフィールで起きたこと、旧ズウォレス領で起きている天然痘のことなどを詳細に説明した。
恐らくはブラームのことなど信用しないだろう、そう思っていたのだが……
「そうか……エルフィーが」
「信じるんですか? 一応送られた暗殺者が持っていた命令書もありますが、見ないので?」
「奴ならやりかねん……」
うなだれながら、ローガンは語りだした。
「やつは国を自分の手中に収めるためにどんな手でも使う。だが私はそれが国民の為になるならばそれでもよいと思った。私も歳だし。世継ぎもおらんからな」
顔を上げたローガン、彼の表情は怒りに満ちていた。
「だが奴は国民の命をごみのように扱った。許されることではない」
「まぁ、我々からすれば貴方の国や国民がどうなろうが知ったことではないのですが……我々の国が壊されることだけは許さない。エルフィーは貴方を殺した後、罪をズウォレスに着せて戦争をおこそうと考えているようです」
「……現在の国の代表は私だ。そんなことは許さない」
ローガンの言葉に、ブラームは口角を吊り上げる。
「では我々は利害の一致した同志だ。協力していただけますね?」




