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元弓兵は帰れない。  作者: 田上 祐司
第三章 薬から始まる侵攻
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第29話

「さてシセル。ここでお前に質問だ。お前は、俺達と共に戦うか?」


 トルデリーゼが見守る中そう問うてくるブラームの表情はまるで子供とふれ合う父親のように穏やかだった。


 そしてこの問いに対する答えはシセルの中ではもう決まっている。


「この戦争に、俺は参加する」


 シセルの答えに、ブラームはわざとらしい演技をしながら聞き返す。


「なるほど参加するか。結構。だが俺たちがとる戦術は、かつてフロリーナが実行した作戦とほぼ変わらないぞ。お前が毛嫌いしていた民間人の虐殺だ。お前はそれに加担する勇気があるんだな?」


 シセルの中でかつてフロリーナが実行した牧羊犬作戦は到底許せない。


 いかなる理由があったところで、それだけは駄目だ。


 そしてシセルはフロリーナに指摘することも正そうともせずただ黙ってみていた。


 そして今回も放っておけば同じような状態になるだろう。


 なら今度こそ止める、止めて見せる。


 シセルが出した、ブラームへの答えはこうだ。


「俺はフロリーナの作戦には全面的に反対する、そしてそれを実行しようとすることもな」


 ブラームがそれを実行しようとするのを断固として否定してやる。


 だがそれだけでは、ブラームも納得はしないだろう。


「甘いなぁ、もしエルフィーが既にシェフィールの実権を握れば他に手は無くなるのに」


「殺さないとは言ってない」


「は?」


 すっとんきょうな声をあげるブラームに、更に続ける。 


「俺がシェフィールに潜り込んで、このエルフィーを殺す。そうすればあんな作戦は実行しなくても大丈夫なはずだ」


 シセルは真剣にそう言ったつもりだったが、ブラームはどこまでも馬鹿にするような声音で笑った。


「あっはっはっはっは!! お前が!? 薬のやりすぎでまともに弓すら引けないお前が!? 傑作だ! おいトルデリーゼ笑ってやれ! あははははははは!!」


 そう笑いこけるブラームとは裏腹に、トルデリーゼの表情は変わらなかった。


 そしてそれを察知したブラームが、怪訝そうな表情を浮かべる。


「ブラーム、お前が俺の弓の腕を見たのはもう大分前になるだろう。外に出ろ」


「ほう? いいだろう腕を見てやるとも」


 所詮は薬物中毒の男のセリフ、どうせ大したことは無いだろう。


 ブラームはこの時までそう思っていた。






 外に出たブラームとトルデリーゼ、衆人環視の中でシセルが示した目標は、空を飛ぶ鴨だ。


 単体で、しかも動き回っている上にかなりの距離がある。


 とても仕留められるとは思えないが……


「おい一体何が始まるんだ?」


「シセルさんが弓の腕を見せるんだとさ」


「え? でもあの人は薬でまともに弓を引けないんだろ?」


 期待する者、どうせ無理だと冷めた視線を送る者、賭けを始める者とさまざまな反応を見せるズウォレス人とベルトムント人達、皆が見守る中、シセルは狙いをつけ弓を放った。


 風切り音と共に放たれたその矢は、僅かに揺れつつ、鴨へと向かっていき……


「おい、嘘だろ……?」


 鴨を貫いて射落とした。


「……言っとくがあれは俺の晩飯だ。お前にはやらんぞ」


「ああいいさ。せいぜいうまい飯を食うといい」


 勝ち誇った顔をするシセルに笑いかけるブラーム。


 ズウォレス人達も歓喜した。


 再び英雄が現れたと。


 『ズウォレスの黒狐』が戻ってきたと。

 





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