第28話
ブラームとトルデリーゼが外に出た時、そこには安心する光景が広がっていた。
「何だお前等! ベルトムント兵がなんでこんな奥地まで来ている!?」
外に居たのはズウォレス、ベルトムント兵に囲まれながら吠えている黒髪の男、シセル。
ご丁寧にベルトムント兵に向けて弓を構え、他の兵士達に取り押さえられている。
その姿を見て、ブラームとトルデリーゼはまるで子供をみるかのような目になった。
とはいえいつまでも放置することはできない、だからブラームは暴れようとしているシセルに声をかけた。
「おいシセル。俺の話を聞け」
「どうなってるブラーム!? なんでこいつらがこんな場所にいるんだ!」
「それは今から話すから、まずはその弓を下ろせ」
それからシセルはブラームの話を聞き、なぜこうなったのか訳を聞いた。
そして聞いたシセルは額に手を当てて項垂れ、半ば呆れながら口を開く。
「こともあろうにベルトムントと手を組むなんてな……正気なのかブラーム?」
「正気だとも。今のベルトムントにまともな国と渡り合えるだけの力はない。手の内に入れておいても問題はない。そう判断した」
そう語るブラームのとなりにいる女に、シセルは視線を向ける。
ベルトムントとの戦いの最中、捕虜にした女、トルデリーゼ。
暫く一緒の家で過ごした彼女だが、その頃とは違い活力に満ちている。
艶のない白髪はそのままに、青い瞳は爛々と輝き、まっすぐにシセルを見据えているのだ。
「……で、トルデリーゼ、お前の目的とやらはなんだ?」
黙ったままのトルデリーゼに声をかけてみる。
以前のように冷たくあしらわれるかと思ったが、以外にもすんなりと答えは帰ってきた。
「あくまで自治を認めてくれというのが目的だが……まぁ他にもあげるとするなら、ある種の善意だ」
「善意?」
シセルは意外な答えに困惑しながらトルデリーゼの声に耳を傾ける。
「どの国も十分血を流した。憎しみの連鎖を終わらせて、各々前に進むべきだ。だから最初の一歩として、私達はお前達からまず歩み寄り、それを成そうとしている。そしてその夢が、ひょっとしたら叶うかもしれない」
理解できない。
「そんな綺麗事、信じられるとでも思ってるのか?」
「信じるか信じないかは自由だ」
2人のやり取りが一旦止まったのを見計らい、ブラームも間に入る。
「シセル、お前には話してなかったが。実は案外その女の言うことも実現不可能な夢って訳じゃない。少し難しいがな」
「というと?」
「現在戦争してる国、どことどこだ?」
ブラームの問いに、シセルは思考する。
「シェフィールとズウォレス。それだけだろ?」
「そうだ。シャルロワはこちらに戦争仕掛ける理由はないし、ベルトムントは戦争する力がない。本気でかち合えるのはシェフィールだけだ。だがシェフィールも一枚岩じゃない」
そこまで言った所で、ブラームは懐に入れていた紙を出す。
そこに書かれていたのは似顔絵だ。
「こいつが、ズウォレスとの戦争を望んでる。なんなら大陸全土を手中に納めようとしてる」
似顔絵として描かれていたのはシェフィールの貴族、エルフィー・アシュフィールドの姿だった。
ブラームはこれを憎々しげに叩きながら続ける。
「近くシェフィールでは選挙が行われる、そこでもしこいつが国の代表になろうもんなら間違いなく利益求めて俺達を攻撃してくる。だがもしこいつが居なければ? 違う代表を選挙で当選させて、ついでに操り人形にでもできれば? どうだ?」
両手を広げ、まるで劇団員になったかのようにブラームは告げる。
「表面上だけでも、平和が実現できる。少なくとも表だって戦争しようなんて事はなくなるだろうよ。俺とこの女はここで意見が合致した。だから手を組む」
「あくまで可能性だな」
「その通りだ。これが叶わないとなれば、俺達はまたフロリーナが使った戦術をシェフィールでやるだけだ。地獄を作り上げ、国を陵辱し、人の命を灰にしてやる」
ブラームはそこまで言ったあと、シセルに問う。
「さてシセル。ここでお前に質問だ。お前は、俺達と共に戦うか?」




