第26話
1週間が経過した時、シェフィールでは公爵のローガンのもとへと暗殺者が再び差し向けられていた。
現在ローガンの周りには護衛の兵士達を含めかなりの人数が配置されているにも関わらず、誰一人としてローガンを守ろうとしていない。
エルフィーの手が回っているのだろう。
黒布隊が城を見張っている中での出来事だ。
「これで二度目だ。どうする?」
「もう一度防ぐって手もあるが、いい加減『暗殺者が差し向けられた! 送ったのはズウォレスだ!』で突き通してくるだろう。いまだにズウォレスに宣戦布告してないのはよっぽどあの男を殺しておきたいんだろうな。仮にも一国の王様だろうに」
石造りの城壁を縄梯子を使って登っていく暗殺者。
ズウォレス人が標準装備としている長弓を堂々と背負い、ローガンの護衛と親しそうに話すらしている。
「……時間がない。俺達で動くぞ。お前達、今回は1人も殺すな」
「あいよ」
「了解」
ローガンを城の外の茂みに隠れ見張っている黒布隊の兵士は3名、そして行動をおこしたのは2名だ。
ブラームからの指示を待つ余裕は無い。
今から始めるのはこともあろうにローガンの救出作戦。
うまくいけばズウォレスまで拉致して交渉の材料にできると踏んでの行動だった。
「翌日までに戻らなければお前はこのことをブラーム様に伝えてこい」
「了解、せいぜい気長に待つことにするよ」
一方、ズウォレス国境付近。
攻撃を警戒して見張りになっていた10数名程度のズウォレス兵が国境代わりの堀を乗り越えてやって来る兵士達を発見した。
先頭を行くのは艶の無い白髪の女性……トルデリーゼ。
そして後ろについて歩いていくのはかつての仇敵、ベルトムントの『人狩り隊』達であった。
「おい来たぞ! ベルトムントの糞野郎共だ!」
「いや待て、何かおかしいぞ」
ズウォレス兵達はそれぞれ弓を構えながら射程に入るのを今や遅しと待ち構えていた。
だが近づいて来るに従い、ズウォレス兵達は違和感を覚える。
先頭を歩くトルデリーゼのすぐ後ろに連れている人間についてだ。
まだほんの子供だった。
「子供……なんでこんなところに連れてくる?」
「いやまて。ありゃ確かフロリーナ様の子供じゃないか?」
「ハァッ!? 一体どういうことだ!?」
「おい良く見ろ。白旗掲げてやがる」
ズウォレス兵達は困惑した。
そして攻撃するのを躊躇している間に、トルデリーゼが隠れているズウォレス兵に向けて叫んだ。
「隠れているズウォレス兵達よ聞け! こちらに敵意は無い! そちらの代表と話をさせよ」




