第23話
「ええと……油漬けの鮭と鱈、ニシンが20樽、ライ麦、小麦がそれぞれ20袋……確か昨日も来たよな? こんなに買って何するんだ? 戦争でも始めるのか?」
シェフィールの南、カーディという都市で黒布隊の男が食料を買いあさっていた。
男は荷車に積んできたありったけの銀貨を使い片端から買っていく姿はさぞかし異様に映っただろう。
不思議そうに、訝しく思いながら店の店主は男に問う。
「船でズウォレスまで運んでやるのさ。こっちの倍で売れる」
店の前に何台も置いてある荷車に次々と食料を押せていく黒布隊の仲間達。
「おい、そりゃ利敵行為だろ。やめとけよ」
「大丈夫だろ。天下のシェフィールがこの程度で負けるわけがない」
男の言葉に、店主も笑う。
そりゃそうだ、と。
「さてと……これが代金だ。また明日来るわ」
「まいどあり」
仲間と共に荷車に食料を積み込み、立ち去っていく黒布隊の男達。
このようなことはシェフィール各地で起きていた。
これからの準備の為に。
シェフィールに起きている異変はもうひとつある。
主に貧民街でのことだが、ある物が出回り始めているのだ。
それはズウォレスから仕入れた大麻や阿片の類。
貧民街で護衛を引き連れそれらを売りさばくこの商人もまた出回らせている人間の一人だ。
「へへ、貧乏人とはいえこれだけ大量に捌いたら儲けも当然かなりのもんになるな」
この商人が手にしているのは銅貨の大量に入った革袋。
じゃらじゃらと満足そうに銅貨を見ながら、楽し気に道を歩く商人と道端で大麻を使って夢見心地になっている貧困者。
商人の護衛は3人、周囲に目を光らせている。
ここは貧民街、いつ襲われるか分かったものではないからだ。
そうして警戒していると……来た。
短剣を手にした男が1人。
「おいアンタ。随分と稼いでるじゃないか。恵まれない我々にお情けをくれないか?」
商人が放つ金の匂いに釣られてきたのだろう。
痩せぎすのその男は商人を真っすぐに見ている。
「生憎だが貴様にくれてやる金はない。お前達、やってしまえ」
「いえ、やめておいた方がいい。旦那、周りを見てください」
「は?」
護衛に言われて周囲に目を向ける商人。
そして次の瞬間、顔が青ざめる。
商人を取り囲むように同じように短剣や木の棒で武装した男達がいたからだ。
その数は数えるのも億劫になるほど。
「わ、分かった。金は出すよ……へへっ、出すって」
金の入った袋を男の方に投げるも、男たちは止まらない。
「こいつは俺達を馬鹿にしたよな? ついでにやっちまおうぜ」
「おおそうだ、やっちまおう」
「狩りじゃ」
このあとこの商人は護衛と一緒に近くの川で発見された。
血まみれの斬殺死体で。
この事件をうけて他の麻薬を売買する商人たちは市場を他に移した。
結果としてこれが原因で様々な場所、身分の人間に麻薬が出回ることとなった。




