第22話
エルフィーが指示を出している最中、シェフィール各地ではいろいろな噂がたっていた。
天然痘が広まっている、医者をエルフィーが集めている、そしてローガンを殺そうとしている。
内容は様々だがエルフィーにとって方々に知られたくない情報が噂という形で身分、職業を問わず伝えられつつあった。
特に広まったのはこれといった楽しみも無い農民や商人といった民衆、彼等にとってそれはとても良い話の種、大いに興味をひく内容だ。
そしてここシェフィールの中心部でも、その内容を口にする人物が1人。
「そう言えば聞いたか? ズウォレスからぶんどった領土、あそこはもう金が出ないらしいぞ」
酒場で客の男達と一緒にビールを飲むこの男、麻服、麻のズボンに革のブーツと他のシェフィール人と変わらない見た目をしていて口から発せられる言葉の訛りも他と変わらない、どこからどう見ても立派なシェフィール人。
だが正体は違う。
彼の正体は恰好と言葉を似せたズウォレス人、黒布隊の1人だ。
「いやいや嘘だろ? あそこからはまだ金が湯水みたいに湧いて出てるって聞いてるぞ。エルフィー様が嘘をつくとは思えんな」
黒布隊の男の話に乗ってきた客は手を振りながら否定する。
シェフィールにおいてのエルフィーの信用度はどうやら高いと見える。
「けど実際、ズウォレスに行こうって奴。ここらで最近見たか? 一時街が丸ごと消えちまうんじゃないかってくらい行ってたが」
「……そういや居ないな」
「労働者の募集、最近されたか? 船乗りから商人、採掘師も大勢募集してたが」
「いや……」
エルフィーは天然痘が流行ってからというもの一時的にステレンで働く労働者の募集を医者のみに絞っていたのだが、これが黒布隊に嘘を信用させる道具として利用された。
「なんかきな臭いな。最近選挙も近づいてきてるし、ちょっと面白くなってきたな」
「おいおい、エルフィー様が自分の成果のでっち上げでもしてるって言いたいのか?」
「俺はそこまでは言ってねぇよ。けどどうなんだろうな」
ニヤニヤと笑いながら黒布隊の男は店主に代金を払って出ていく。
「ごちそうさん」
後ろを見れば先ほど黒布隊の男が伝えた情報をネタに噂話をする客たちの姿が確認できた。
「あいよ……あらまぁ綺麗な銀貨だこと」
釣りはいらない、そう言い残し黒布隊の男は去って行った。
妙に綺麗な出来の銀貨を渡して。




