第21話
執務室に居たエルフィーが激昂したのは側近からの報告を受けてからであった。
ローガン公爵の暗殺失敗、その知らせを聞いた途端、エルフィーは机をひっくり返して拳から血が出るほど力を込めて壁を殴った。
その剣幕に側近もたじろぐ。
「ど、どうか落ち着いて下さい」
「落ち着いていられるか。ほぼ警戒されていない状況で失敗したんだぞ? なぜ失敗した?」
深呼吸を繰り返しなんとか平静を取り繕うエルフィー。
そして色々と考え始めた。
まずはなぜ失敗したのか?
「失敗したあと、ローガンの動きは?」
「動きはありません。殆どいつもと同じ生活を送っていますし、どうにも殺されかかったことにすら気が付いていないようです」
──となると、暗殺を止めたのはズウォレスかシャルロワだ。
仮に暗殺を止めたのがローガンの護衛なら黙っているということはまずしないだろうし、ローガンも危機感を持って行動を変えるはず。
「ええい、もう一度だ。必ず仕留めろ、奴を殺せなければ私の野望も潰えることになるんだからな」
「承知しました」
そう言って執務室を出ていく側近。
だが彼は再び戻ってくることになった。
「え、エルフィー様!! 大変です!」
あわただしく戻ってきた側近が唾を飛ばしながら口を開く。
まるで陸に上がった魚のようなその姿に、エルフィーは頭を痛めた。
「部屋を出た瞬間目の前に熊でも居たか? 落ち着け」
「そんな場合ではありません! 農民達が穀倉地帯に火を放ったそうです!」
「は?」
エルフィーは全く理解ができず、困惑した。
農民が、穀倉地帯を、焼いた?
何故?
「どうやら農民達はエルフィー様が指示したと口々に言っているそうですが……」
「馬鹿を言うな! 私はそんなことを指示してはいない!」
エルフィーには全く見に覚えのない指示。
しかもそれを農民達は実行に移したと側近は言う。
だが当然エルフィーはそんな指示などしてはいないし、理由もない。
つまるところ誰かがエルフィーの名を騙り農民達を騙している。
「すぐにやめさせろ! それと被害は!?」
「現在およそ3割程が焼けています。彼等の話では麦角の影響で一度全ての畑を焼いたあと再び作付けすると言われたようで……当面の間はエルフィー様の計らいで食糧は補填すると」
そんなことをすると本気で考えていたのか?
エルフィーはそう叫びたくなるのを抑えた。
だが非常にまずい、これから戦争の準備に入るというときに食糧がないとは……
「検問をはれ。軍事に関係する場所は特にだ。それと農民から聞き取りを行って指示したやつが何者か探れ。いいな?」
「承知しました」




