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元弓兵は帰れない。  作者: 田上 祐司
第三章 薬から始まる侵攻
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第18話

 ズウォレスとシェフィールが着々と準備を進めている間、動こうとしない人間達が居た。


 トルデリーゼ率いるベルトムント軍残党……『人狩り隊』の面々である。


「トルデリーゼ様、本当によろしいのですか? ここは我々の持ち場です。報告は義務では」


 それは夜のこと。


 部下の1人が掘った穴の中で一緒の毛布にくるまっているトルデリーゼに話しかける。


 最近のトルデリーゼは本来行うべきシェフィールへの報告を行っていなかった。


 いや、正確にはズウォレスの動きの一部を報告していなかったのだ。


「俺達の役目はここの防衛と、ズウォレス人共の動きを報告。そうでしょう?」


「考えがあるんだ。今はまだ話せないが」


 思わせぶりな言葉を残しつつ目を閉じるトルデリーゼに、部下の兵士は困惑を隠せなかった。


 このところトルデリーゼはずっと自分の意図を話そうとしない。


「寝よう。明日も早い。そうだ、朝食は白いパンと肉を入れたスープでも飲もう。舌が焼けるほど熱いのをな」


「はぁ……」


 そう言うとトルデリーゼは寝息を立て始めた。


 とても安らかな寝顔で、安心しきっている。


「おやすみなさい。トルデリーゼ様」






「寝たか? トルデリーゼ様は」


「ええ」


 トルデリーゼが寝た後、一緒の毛布にくるまっていた部下は毛布を抜けだして他の仲間と合流した。


 夜風が心地よい、だがそれとは裏腹に人狩り隊の面々の心中は憂鬱としていた。


「ズウォレス人が国境を越えていくのを見た奴もいる。逆にシェフィール人がズウォレスとやり取りをしてるのを見た奴も」


「そうですな」


「それを一切報告せずに一体トルデリーゼ様は何を考えているんだ? お考えが何一つ理解できない。奴らが何か重要なことをするために動いているとしか思えん」


 トルデリーゼに対する疑念が、仲間達を覆っていた。


 彼女がやっていることは言ってしまえばズウォレスに協力しているようなもの。


「まさかズウォレスにつくつもりか?」


「そんなわけないだろ? あの人自身もズウォレス人から拷問された人間だ、あの人の指や身体にある傷見たことないのか? 間違いなく相当憎んでるはずだ」


「けどそうとしか思えないような動きをしてる」


 仮にそうだった場合、部下たちは間違いなく反抗する。


 ズウォレスと組むなどあってはならない、それだけは皆一致している。


「何はともあれ今は静観しよう。けど事と次第によっては……言わなくてもわかるな?」


「ああもちろんだ」


「裏切りは許さない」


 空に浮かぶ月を見据えながら彼らは誓った。


 

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