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元弓兵は帰れない。  作者: 田上 祐司
第三章 薬から始まる侵攻
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第17話

 ズウォレス共和国、フェーンにて……


 ブラームはズウォレス人を集め、その前で話を始める準備をしていた。


「一体なんの話が始まるんだ?」


「いよいよシェフィールとおっぱじめるんじゃないか? 色々準備してきたろ?」


「ああそうだろうな。いよいよ俺たちの領土を取り返せるってわけだ」


 置かれた演説台代わりの木箱の前でブラームの到着を今や遅しと待っているズウォレス人達……


 色めき立つ者、不安そうな表情を浮べる者、拳を握りしめにやつく者、集まった者達の反応は様々だ。


「おっ、来たぞ。ブラームさんだ」


 そこに登場したブラーム、その表情はとても硬い。


「今日集まってもらったのはほかでもない、重要な話があってのことだ」


 むしろ重要じゃない話で呼び出したりはしないだろう。


「まず1つ。俺はお前達に謝らなくてはならない。なぜなら俺は……ずっとお前達を騙してきたからだ」


 やや俯きがちになりながらブラームの口から出た言葉、それは集まったズウォレス人達を困惑させる。


「俺はずっとフロリーナの命令と言ってお前達に指示をしてきたが、あれはフロリーナの命令なんかじゃなく俺の、俺の独断でお前達に指示していたにすぎない。本当のフロリーナはもう……半年前に死んでいる」


 絞り出したその声。


 ──今日で俺の命も終わりだな。

 

 覚悟を決めて集まったズウォレス人達の方を見る。


 怒り狂い、自分を殺しに来るだろうとブラームは考えていた。


 だがブラームが思っていた反応が返って来ることは無かった。


 ズウォレス人達はまるで『早く続きを言え』とばかりに平然としていたのだ。


「お前達……なんで?」


「いや……ハナからそんなことは知ってるし。他に何かあるんじゃないんですか?」


「ないなら俺たちはとっとと仕事に戻りますぜブラームさん」


 何でもない事のように言う彼らに、今度はブラームが困惑した。


「なんで……知ってたんなら……いや、俺が憎くないのか? 俺が権力欲しさにフロリーナを殺したとは思わないのか?」


「なんでアンタを憎むんだよ。これまでずっと俺達を引っ張ってきてくれたのはアンタとフロリーナ様だろう」


「それにアンタにそこまでの度胸なんてあるわけないさ。はっはっは!」


 笑い飛ばす彼らの瞳に疑いの色はない。


 本心からブラームを信用しているのだ。


「ここでシェフィールの奴等にフロリーナ様は斬られた。ラルスさんもな。アンタはこのままでいいのか?」


「……いいわけないだろう」


「だったら、復讐してやらなきゃな。また立ち上がろうぜブラームさん。なんたって俺たちは一度国を滅ぼされた状態から起き上がった、諦めのすこぶる悪い奴等の集まりなんだからな」


 いつの間にか、ブラームではなく集まったズウォレス人達の方がブラームを諭していた。


「やろう。シェフィールの守銭奴共にとられた領土を奪い返して、死んでいった奴らの仇を討つんだ」


 おお、と歓声があがる。


「悩んでた俺が馬鹿みたいじゃないかよクソッタレ……いいんだな? 本当に」


「いつもみたいに偉そうに堂々と指示してくださいな。ブラームさん」


「ああ分かったよ! やってやる! その代わりお前等には地獄を見てもらうぞ! 暫くまともな飯が食えないことぐらいは覚悟しておけ!」


 唾を吐きながらそう叫ぶブラームの表情はまるでつきものが落ちたように清々しかった。

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