第17話
ズウォレス共和国、フェーンにて……
ブラームはズウォレス人を集め、その前で話を始める準備をしていた。
「一体なんの話が始まるんだ?」
「いよいよシェフィールとおっぱじめるんじゃないか? 色々準備してきたろ?」
「ああそうだろうな。いよいよ俺たちの領土を取り返せるってわけだ」
置かれた演説台代わりの木箱の前でブラームの到着を今や遅しと待っているズウォレス人達……
色めき立つ者、不安そうな表情を浮べる者、拳を握りしめにやつく者、集まった者達の反応は様々だ。
「おっ、来たぞ。ブラームさんだ」
そこに登場したブラーム、その表情はとても硬い。
「今日集まってもらったのはほかでもない、重要な話があってのことだ」
むしろ重要じゃない話で呼び出したりはしないだろう。
「まず1つ。俺はお前達に謝らなくてはならない。なぜなら俺は……ずっとお前達を騙してきたからだ」
やや俯きがちになりながらブラームの口から出た言葉、それは集まったズウォレス人達を困惑させる。
「俺はずっとフロリーナの命令と言ってお前達に指示をしてきたが、あれはフロリーナの命令なんかじゃなく俺の、俺の独断でお前達に指示していたにすぎない。本当のフロリーナはもう……半年前に死んでいる」
絞り出したその声。
──今日で俺の命も終わりだな。
覚悟を決めて集まったズウォレス人達の方を見る。
怒り狂い、自分を殺しに来るだろうとブラームは考えていた。
だがブラームが思っていた反応が返って来ることは無かった。
ズウォレス人達はまるで『早く続きを言え』とばかりに平然としていたのだ。
「お前達……なんで?」
「いや……ハナからそんなことは知ってるし。他に何かあるんじゃないんですか?」
「ないなら俺たちはとっとと仕事に戻りますぜブラームさん」
何でもない事のように言う彼らに、今度はブラームが困惑した。
「なんで……知ってたんなら……いや、俺が憎くないのか? 俺が権力欲しさにフロリーナを殺したとは思わないのか?」
「なんでアンタを憎むんだよ。これまでずっと俺達を引っ張ってきてくれたのはアンタとフロリーナ様だろう」
「それにアンタにそこまでの度胸なんてあるわけないさ。はっはっは!」
笑い飛ばす彼らの瞳に疑いの色はない。
本心からブラームを信用しているのだ。
「ここでシェフィールの奴等にフロリーナ様は斬られた。ラルスさんもな。アンタはこのままでいいのか?」
「……いいわけないだろう」
「だったら、復讐してやらなきゃな。また立ち上がろうぜブラームさん。なんたって俺たちは一度国を滅ぼされた状態から起き上がった、諦めのすこぶる悪い奴等の集まりなんだからな」
いつの間にか、ブラームではなく集まったズウォレス人達の方がブラームを諭していた。
「やろう。シェフィールの守銭奴共にとられた領土を奪い返して、死んでいった奴らの仇を討つんだ」
おお、と歓声があがる。
「悩んでた俺が馬鹿みたいじゃないかよクソッタレ……いいんだな? 本当に」
「いつもみたいに偉そうに堂々と指示してくださいな。ブラームさん」
「ああ分かったよ! やってやる! その代わりお前等には地獄を見てもらうぞ! 暫くまともな飯が食えないことぐらいは覚悟しておけ!」
唾を吐きながらそう叫ぶブラームの表情はまるでつきものが落ちたように清々しかった。




