第15話
「さて、話を進めるか」
葡萄酒の杯を机の上に置きながら、ブラームは話を始めた。
「今のズウォレスはかなり不安定だ。シェフィールはこちらを敵視してるし、シャルロワも今は仲間だが今後は分からない」
「……そうだな」
椅子に深く腰掛けるブラームは先ほどの笑顔とは一転、険しい表情。
「加えて自国は頭が居ないも同じ。次の戦いでズウォレスが力を見せなければこの国はシャルロワか……それかシェフィールに吸収されて消える。もしかしたら今の暮らしよりもマシな生活を送れるかもしれないがな」
「平和を維持できるなら、それもありとは思うがな」
「駄目なんだよ……それじゃあ」
ブラームは頭を抱えた。
「俺はな、『夢』があるんだ」
「夢?」
「ああそうだ。フロリーナと……あいつと一緒に見た夢だ。ズウォレスの完全なる復活と、永遠に続く平和。それが俺とあいつの『夢』だ」
重苦しい……
自分の家の中なのに、シセルはまるで牢獄に居るような気分になる。
「俺がかなえてやるんだ。そのためなら、俺は命すらくれてやる」
「具体的に一体お前は何をするつもりなんだ? ブラーム」
「フロリーナの死を、ズウォレス人に伝える」
その言葉に、シセルの目が見開かれる。
「既にフロリーナの事に疑いを持っている奴らは多い。今後もズウォレスを存続させるにあたって、このことは団結に罅を入れることにもなりかねん」
「下手すれば殺されるぞ。そうなったら誰を指導者にするつもりだ?」
「お前の師匠」
ブラームの言葉に、シセルは食って掛かる。
「駄目に決まってるだろうが! あいつはあくまで兵士だ。国を治めるだけの器なんてない」
「他に居ない。ズウォレス人の精神的な支柱になれるやつは。俺が死んだあとはお前の師匠だ。ラルスが生きていたらもっとましな選択肢もあったんだがな」
「……」
ズウォレスをベルトムントから取り戻した時、フロリーナは後任の育成をしていなかった。
強いていうならブラームが後任にあたるだろうが、それももはや無理だ。
「お前がまとめ役になってくれたら、こんなに悩むことはなかったんだがな」
シセルに顔を向けながら苦笑いを浮かべるブラーム。
「地盤は整えた。『黒布隊』の育成もいよいよ佳境、シャルロワとの連携も取れるように手配しておいたし、作戦もお前の師匠には伝えた。念のため書面にも残しておいた」
「ブラーム……」
ブラームは自分が居なくなることを前提に動いている。
「いつでも死ねる。そして俺が居なくなることで団結が継続できる。こんなにうれしいことは無い」
「生きろ、もうお前しかいないんだからな」
「まぁ死ぬと決まったわけじゃないからな。仮に俺が死んだら、お前の師匠はお前が支えてやってくれ。それだけ言っときたかった」




