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元弓兵は帰れない。  作者: 田上 祐司
第三章 薬から始まる侵攻
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第11話

 楽しそうな鼻歌がフェーンの建物の一室に響く。


 石造りの部屋の中、ブラームと報告に来た兵士が話をしている。


「よしよし、まさか俺達が仕掛けるまでも無く火種が付くとはな。いいぞ、実にいい」


「偵察に行った者の報告によりますと既にステレンの人間は殆どが天然痘に感染しているようです」


 ステレンで発生した天然痘は既に多くの感染者を出しその影響はシェフィール本国にも及んでいる。


 ブラームはこの報告を聞いて色めき立った。


「さて、だがどうするか……例のアレはどの位集まってる?」


「およそ8割ほど。今実行するのでしたら残りの2割は遅れて届くことになります」


 そう言われて渋い顔をするブラーム。


 やりたいこと……というよりはやってやりたいことはあるがそれを今実行すれば十分な効果が得られない可能性が高い。


「人手を増やせばどうだ?」


 苦肉の策として挙げてみる。


「それでもひと月はかかるかと。今は傍観するのが最善と思います」


「はぁ……残念だ」


「それにまだ『黒布隊』の育成も十分ではないでしょう? そちらも済ませた方がいい」


「ごもっとも……そうしよう。シェフィールの監視は続けさせておいてくれ。変化があれば伝えるように」


「分かりました」




 


 さて、天然痘とは何か?


 簡単に言えば熱と膿の詰まった水疱が出来て致死率も強く、おまけに感染力が強い病だ。


 そしてこれが流行している旧ズウォレス領の村、ステレンは地獄と化していた。


「ああ……クソ……痛い……痛いよ……」


「開けてくれ! 助けてくれ!」


 この病気に対して有効な薬はない。


 強いて効果があるものをあげろというなら痛みを和らげるための大麻、芥子だろうか?


 どちらもシェフィールでは依存性もありそこまで作られてはいないもので、当然民間に流通はほぼない。


 なら実際にこの病気が出た場合どうするのか?


「俺は感染してないんだ! 頼む死にたくない! 出してくれ!」


 家の中に閉じ込める、これである。


 ステレンはもはやズウォレス領であった時とは人口が比較にならない程多く、その数は1万人以上に上る。


 当然家もかなりの数が立ち並ぶわけだが、家の中で感染者が出た場合、家族諸共家の中に閉じ込め病気を封じる。


 その際感染者以外の家族が感染しているかしていないかは一切考慮しない。


「おい次は向こうだ! 家族全員だそうだ!」


「キリがねぇ! 火をつけろ! 全員焼き殺せ!」


 そしてステレンの住民は次第に過激化する。


 木造の家に火を放ち、人間諸共焼き払う。


 もはや秩序など存在しなかった。


 





この話で登場した天然痘は現実では1980年、WHOにより根絶宣言が出されています。

現在は研究用に保管されているもののみでワクチンも存在します。


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