第10話
シセルと老人が話をしているのと同時刻。
旧ズウォレス領とズウォレスの境界線付近にて……
「おおトルデリーゼ様、今日もズウォレスとシャルロワは静かですよ。流石にまだ攻めてはこないでしょう」
堀の中から足音に反応して顔だけ出す男達。
革鎧を来て視察に来たトルデリーゼを、休憩中なのだろうビールを飲みつつ人狩り隊の兵士達が迎えた。
兵士達はいずれも土汚れが激しいが、トルデリーゼは構わず兵士を両手で抱き締めた。
「と、トルデリーゼ様。汚れます」
「構わんさ。それよりすまない。お前達にこんな真似をさせて」
トルデリーゼ率いる人狩り隊、彼等は旧ズウォレス領にシェフィール軍の駐屯部隊として存在していた。
だがそれは、シャルロワとズウォレスが攻め入って来た時に真っ先に被害を受けることを意味している。
その為今人狩り隊は国境で堀と柵を設置し続け敵からの攻撃に耐えられるように備えをしているのだ。
「今はシェフィールと組むより他はない。今は……な」
「いずれ叩きのめしてやりますよ。シェフィールにズウォレスに……ああ勿論シャルロワも」
そう言ってきた兵士は土まみれの顔をくしゃっと歪ませて笑顔を作った。
その笑顔を見て少しトルデリーゼも安心したように思える。
「さて、休憩が終わったら私もやる、道具を貸してくれ」
「いやしかしその手では……」
ズウォレスに切り落とされたトルデリーゼの手。
兵士はそれを気にしていた。
「こうみえても私も軍人だ。泣き言は言わない」
「はっはっは! そういえばそうでしたな。ですがここらはかなり土が固いですよ。手に豆を作る準備は宜しいですかな?」
「望むところだ」
道具を受け取ったトルデリーゼは不適に笑いながら、土を掘り始めた。
「ふんふんふーん……ふふふふーん」
鼻歌を歌いながらシェフィールにある自分の城で甘い果物を食べるエルフィー。
大変気分が良いのだろう、装飾の付いた椅子に座って背もたれに寄りかかって目を細めながら招いた吟遊詩人の奏でる竪琴の音色と歌に酔いしれる。
……内容は自分を讃える歌だが。
「あのー、エルフィー様」
「ふっふふーん」
「エルフィー様。報告があるのです。申し訳ありませんが聞いていただきたく」
「なんだ? 今いいところなんだ」
突然やってきた側近にやや不機嫌になったエルフィー。
「ステレンで天然痘が流行しています。金の採掘どころではありません」
「おい詩人歌止めろ。なんだって?」
慌てて吟遊詩人が竪琴を止めると、報告に来た側近の言葉に耳を傾ける。
「ですからステレン……旧ズウォレス領で天然痘が流行しているのです。恐らく一か所に人が密集しすぎたのがいけなかったのでしょう」
「罹患者は?」
「ステレンの人口のほぼ半分以上、それに海を越えて本国の港にも出始めております」




