第5話
カルラに連れられてシセルが村に戻ると、そこには青空の下で板に絵を画く子供達がいた。
被写体は飼っている羊で、皆真剣に画いている。
「シセルせんせー、おそいよ」
「あぁ……すまんな」
シセルに気付いた子供達が笑いながら茶々を入れる。
どこまでも無邪気で、屈託のない笑顔を浮かべる子供達。
──コイツらみたいな奴等が世界中で増えれば、戦争なんてなくなるんじゃないか?
能天気にそんなことを考えながら、シセルは子供達が画く絵を後ろからみていく。
もはや生き物として描かれていないものから才能が光るものまで様々だ。
「けどシセルせんせー、絵なんて描いてなんの意味があるの?」
「意味?」
男の子がそう聞いてきた。
「まえにお父さんが言ってた。『勉強なんて野菜の育て方と女の口説き方さえ覚えとけばいい』って」
「ほ、ほう……」
なかなか言ってくれる。
「そうだなぁ……まぁこの絵を描くっていうのはフロリーナが考えたものだが……俺の意見を述べるなら……そうだな『伝えるため』だ」
「伝えるため?」
「そうだ。もっと言うなら『正確に伝える為』だな。例えばその羊、言葉だけで隣の奴に伝えてみろ、隣の奴は聞いたことをそのまま絵に書いて見せてみろ」
男の子は羊をじっと見つめたあと、隣の女の子に耳打ちした。
そして言われるがままに女の子は描く。
そして出来上がったのは到底羊とは似ても似つかないぐちゃぐちゃな化け物の姿。
「……一体どう伝えたらこうなるんだ? まぁいい、よくわかっただろ? 言葉だけでもある程度は伝わるし、時間をかければしっかりと伝わる。けどそこに絵があればどうだ?」
「わかりやすい」
「だろう? 相手により早く、より正確に伝える為に俺達は『絵』を学ぶんだ。これでいいか?」
シセルがそう尋ねると、子供達は大きく頷いた。
──まぁ。フロリーナは敵地に侵入した時、敵の地形や陣形を記録して伝えるためって言ってたが。黙っとくか。
「さて、お前らそれが書き終わったら晩飯の準備だ。今日はビートのシチューだぞ」
またか、子供達のそんな悲鳴を気にすることもなくシセルは手にしている弓に目をやった。
「シセルさんも療養頑張りましょうね。しっかりご飯食べて、沢山練習して。また元の腕に戻しましょう」
「ああ……そうだな、その通りだ」
自然と弓を持つ手に力が入った。




