表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元弓兵は帰れない。  作者: 田上 祐司
第三章 薬から始まる侵攻
160/201

第5話

 カルラに連れられてシセルが村に戻ると、そこには青空の下で板に絵を画く子供達がいた。


 被写体は飼っている羊で、皆真剣に画いている。


「シセルせんせー、おそいよ」


「あぁ……すまんな」

 

 シセルに気付いた子供達が笑いながら茶々を入れる。


 どこまでも無邪気で、屈託のない笑顔を浮かべる子供達。


 ──コイツらみたいな奴等が世界中で増えれば、戦争なんてなくなるんじゃないか?


 能天気にそんなことを考えながら、シセルは子供達が画く絵を後ろからみていく。


 もはや生き物として描かれていないものから才能が光るものまで様々だ。


「けどシセルせんせー、絵なんて描いてなんの意味があるの?」


「意味?」


 男の子がそう聞いてきた。


「まえにお父さんが言ってた。『勉強なんて野菜の育て方と女の口説き方さえ覚えとけばいい』って」


「ほ、ほう……」


 なかなか言ってくれる。


「そうだなぁ……まぁこの絵を描くっていうのはフロリーナが考えたものだが……俺の意見を述べるなら……そうだな『伝えるため』だ」


「伝えるため?」


「そうだ。もっと言うなら『正確に伝える為』だな。例えばその羊、言葉だけで隣の奴に伝えてみろ、隣の奴は聞いたことをそのまま絵に書いて見せてみろ」


 男の子は羊をじっと見つめたあと、隣の女の子に耳打ちした。


 そして言われるがままに女の子は描く。


 そして出来上がったのは到底羊とは似ても似つかないぐちゃぐちゃな化け物の姿。


「……一体どう伝えたらこうなるんだ? まぁいい、よくわかっただろ? 言葉だけでもある程度は伝わるし、時間をかければしっかりと伝わる。けどそこに絵があればどうだ?」


「わかりやすい」


「だろう? 相手により早く、より正確に伝える為に俺達は『絵』を学ぶんだ。これでいいか?」


 シセルがそう尋ねると、子供達は大きく頷いた。


 ──まぁ。フロリーナは敵地に侵入した時、敵の地形や陣形を記録して伝えるためって言ってたが。黙っとくか。


「さて、お前らそれが書き終わったら晩飯の準備だ。今日はビートのシチューだぞ」


 またか、子供達のそんな悲鳴を気にすることもなくシセルは手にしている弓に目をやった。


「シセルさんも療養頑張りましょうね。しっかりご飯食べて、沢山練習して。また元の腕に戻しましょう」


「ああ……そうだな、その通りだ」


 自然と弓を持つ手に力が入った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ