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元弓兵は帰れない。  作者: 田上 祐司
第一章 炎と灰の戦い
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第16話

 メラント島の南部、正午……


 ホルウェ港から奪取した船が多数停留するその場所にズウォレス軍は陣を敷いていた。


 現在は負傷兵の手当を終えた後、武器、矢の製造がおこなわれている。


 船の操船は覚束ない彼等ではあったものの矢の製造はかなりの速さで行えている。


 適当な木を切り倒し、丸太を割って、短剣で角をとって形を整える……


 あとは矢尻と矢羽をつければ出来上がりだが、素材になる鉄が不足しているので先を焼いて尖らせて終わりだ。


「流石ズウォレス人、見事なものだ」

 

 手際の良さにシセルは感嘆の声を漏らす。


「弓を主兵装にしている我が国は矢を自分たちで作ることが当然だったからな。子供でも出来る」


 隣で自慢げにそう言うのはフロリーナ。


「それで? 次の作戦は何ですかな指揮官殿」


 嫌味っぽく言ってみた。


「次は賭けだよ。これを渡しに行く」


「それは?」


 にやにやといたずら好きな子供のような笑みを浮かべるフロリーナにシセルは一抹の不安を覚えたのは言うまでもない。






 ベルトムント王国の首都、ヴェスト……


 シセル達ズウォレス軍が島へとたどり着き、休息をとっているのと同時刻。


 ベルトムント王国の首都にようやく旧ズウォレスでの大規模反乱の知らせが届けられた。


「ほう、わざわざ島に逃げ込むとは……そこが死地と決めたか」


「そ、そのようで」


 王と臣下である貴族が数名集まった王城の執務室では不機嫌さを隠そうともしないベルトムント王が周囲の貴族を威圧しながら話を進めている。


 その中でも特に詰められている男こそ、旧ズウォレス王国領土を任せられていた貴族、クラウスであった。


 彼は王の前で臣下の礼をとりながら、執務室の絨毯に汗を落とす。


「ホルウェ港の船まで盗まれたか、かなりの痛手だ。なんとしてでも取り戻すのだ。クラウスよ」


「勿論でございます!」


 周囲の貴族は胸を撫で下ろした。


 自分でなくて良かったと。


 自分の領地でもない場所の、それもたかだか内乱に自分の兵士を使うなどわりに合わないにも程がある。


「それにしてもメラント島か……あそこは確か」


「流行り病の隔離用、それと外国船の一時的な係留地として開拓をするためにズウォレス人の労働者を入れて北部に大量の住居、灯台などを設置してあります」


 周囲の貴族たちの一人がそう告げるとああそうだ、と王は頷いた。


「さてさて、それは別に良いがあそこをそのように開拓したほうが良いと言ったのは誰だったか……」


「わ、私でございます」


「おおクラウス! そなただったか。そなたらしくもない珍しく良い考えであったから認可したが……メラント島の開拓案。あれは本当にそなたが考えたのか? 」


 わざとらしく声をあげて笑う王、だがその目は一切笑っていなかった。


「勿論そうでございます! このクラウス、王に嘘偽りなどーー」


「申さぬと? ならばよい。内乱の鎮圧に勤しむがよい。下がれ」


 ははっ、大きく頷いたクラウスは執務室から出ていった。


「クラウスで大丈夫でしょうか?」


 クラウスが出ていった直後、貴族の一人がそう言った。


「まぁ無理であろうな。だからそなたらも戦の準備をせよ。クラウスの尻拭いをしてやることになるだろうからな」


 

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