第3話
現在のズウォレス軍に求められたのは軍事力の増強であった。
シャルロワと共闘しようにもズウォレスの戦力は少なすぎる、練度も低い。
これではいずれ発言力が無くなるばかりか、国の存続も危うい。
だが兵士を育成しようにも民間人から徴兵すれば国力が落ちてしまう。
悩みに悩んだ結果、国の代表となったブラームが出した答えは……
「練度の低い大量の兵士よりも、少数でも練度の高い……全員に分かりやすく言うならば『ズウォレスの黒狐』を何人も作る」
これがブラームの出した結論であった。
そして部隊は結成される。
他の兵士は赤い旗を腕に巻くのに対し結成された部隊は黒い布を腕に巻く。
付いた渾名は『黒布隊』
元狩人、弓兵の中でも遠くまで矢を飛ばせる者、偵察や暗殺が上手い者など、兵士の中でも腕利きの者が多数集められた。
「諸君らは選ばれた存在であるが、その力は民の為に振るわれるべきものであるということを肝に銘じておいてほしい。我々が今後戦争をするにあたって諸君らは最前線で戦うことになる。困難も、絶望も、地獄も溢れていることだろう。だが俺は信じている! 諸君らがそれらすべてを乗り越え我等がズウォレス共和国に勝利をもたらしてくれると!」
黒布隊を結成するにあたって教育係が必要になった。
その役に任命されたのは、老人だ。
「儂が今まで培ってきた技術を貴様等ひよっこに余すことなく全てぶち込んでやる! 儂の教育が終わった後には戦場が天国に思えるようになってるだろう。儂という壁を越え、ズウォレスに勝利をもたらすために尽力しろ。以上だ」
黒布隊が行った訓練は多岐にわたる。
潜入、破壊工作、諜報、格闘訓練、そして弓術。
これらの基本的な訓練とは別に敵国であるシェフィールの地理、敵将軍や貴族の名前や特徴を覚える、水泳、操船、拷問に対する訓練なども実施された。
これらの訓練の中でブラームが特に力を入れていたのは『生き残る方法』である。
「戦力で劣る我々が兵士を失うことは国の滅亡に直結する。故に諸君らに自決は……いや死ぬことは許されない。指揮官であるフロリーナ、そして俺の許可なく死ぬことは重罪だ。生きろ! 生きて敵を殺し続けろ!」
着々と準備を進めるブラーム達。
──フロリーナ、お前の意思と願望は必ず俺が成し遂げてみせる。だから、地獄で待っててくれ。
見上げたブラームの頭上には、眩いほどの太陽が輝いていた。




