第57話
ズウォレス軍からの追撃の手から逃れ、撤退を続けた結果、シェフィール軍がたどり着いたのは彼らが既に制圧していたホルウェの港。
そこまでたどり着くまでに丸一日を要したが距離が離れていくにつれ追撃はなくなった。
「いやはやまいったまいった。まさかここまでやってくれるとはな」
両頬の縫合が終わったエルフィーは略奪品の詰まった木箱にどっかりと腰掛けた。
片手に焼いた豚肉の串、そしてもう片方の手に葡萄酒の入った杯を手に呑気に語る。
それを口にしたことで塩気と酒精が両頬の傷口にとてもよく染みたが。
「私に矢を射れる人間がいたことにも驚きだが、よくもまああそこまで耐えられたものだ。感動すら覚える」
「エルフィー様、言っている場合では……」
「そうだな。よし、ズウォレスに使者を送ろうか。誰ぞ行ってくれる者はいないか?」
エルフィーの言葉に、その場に居た全員が顔を逸らした。
当然だろう、殺される可能性の方が高いのにわざわざ行く人間もいない。
「……達成したものに金貨50枚だ」
「「「私が参りましょう」」」
エルフィーは小さくため息を吐いた。
「ところでエルフィー様、敵に送る内容は? 何をなさるつもりなのです?」
「ん? 停戦だ。一度矛を収め、そのうえでお互いに話し合いましょう……と、おお痛い」
塩が染みるのを承知で再び串を自分の口に運ぶエルフィー。
「乗るでしょうか?」
「お互い準備も立て直す時間も必要だろう。乗ってくるさ。問題は味方だが……そうだな『ズウォレスの黒狐は未だ健在、太陽を落とすが如き活躍はまさに英雄』こんなものか? 他に敵を褒める言葉が浮かばん」
食べ終わった串を振り、唸りながら思案するが……どれだけ考えてもそれ以上は出てこなかった。
「今後はどうなさいますか?」
「ここに留まる。私はあの城……あー何だったか……あのほらあの……そうだライデンだ! ライデン城! あそこが気に入った。あそこを拠点にしてズウォレスをシェフィールの物にしてやる」
「はぁ……」
ーー私の望む場所は、最初で手に入れたしな。
エルフィーは内心ほくそ笑んでいた。
彼が欲しかったもの、それはズウォレスの北西部にある村、ステレン。
今回の戦争の前、ズウォレスで黄金が採掘され始めたという噂があった。
エルフィーも初めは所詮ただの噂話と放っておいたが、日に日に入って来る情報は多くなり偵察を送ってみれば確かに金が大量に出始めていたという。
ーー口減らしでシャルロワにも攻め入ろうかとも思ったがあれ以上進軍しても勝てん。ここらが潮時だろう。
戦う時は味方は多く、報酬を受け取る味方は少ない方がいい。




