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元弓兵は帰れない。  作者: 田上 祐司
第二章 呪われた黄金
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第55話

 夜、撤退中のシェフィール軍に対し、ズウォレス軍では追撃を行わなかった。


 『ズウォレス軍では』の話だが。


「クソ! あの黒髪の野郎と白髪のジジイだ! あいつらをどうにかしろ!」


 雪の積もった草原を全力疾走するシェフィール兵の後方を追跡してくる2つの影。


 ある時は木の陰に隠れ、草原に伏せ、追いかけられれば退き、逃げれば追いかけてくる。


 ずる賢いその姿はまさに『狐』の名前が相応しい。


「なんでこの暗闇の中で正確に急所が射れる?」


「知るか。とっとと退け。流石の腕前だが数が違いすぎる。たかが2人で俺達を全滅させることなんてできないし。第一狙ってるのはお偉いさんか上官殿だけだ。俺達雑兵なんて見向きもしないさ」


 この兵士の言う通りであった。


 追いかけてくる2人は指揮を執る隊長格の人間を集中的に攻撃している。


 または人に指示を出した人間。


 それ以外は無視して逃げるのを一切邪魔してこないのだ。


「黒い髪、そんであの弓の腕、ズウォレス兵……」


「あれが噂の『ズウォレスの黒狐』ってわけか。死んじゃいなかったんだな」


 再び弓を構えだした兵士達の後方に居る2人、一体次は誰の頭を射抜くのだろうか?


 迫りくる矢を視界に捉えた兵士は祈りを捧げた。






 シェフィール兵が撤退を続ける中、フェーンの居るズウォレス軍は残存するシェフィール兵の掃討をしていた。


「こっちに来てくれ! フロリーナ様が負傷!」


 松明を持った兵士が叫ぶ。


 幸いにもフェーンに残ったシェフィール兵は少数ですぐに掃討は終わるが……問題は別にあった。


 フロリーナの負傷である。


「下腹か……どうだ?」


 鎧を脱いだフロリーナの白い下腹は血にまみれて真っ赤、駆けつけた医者は顔を思わずしかめた。


「縫うのは可能ですが……それから先は……」


 崩れた建物の壁に背中を預け座るフロリーナは意識こそはっきりとしていたものの出血があり脂汗が酷い。


 周囲の兵士を不安にさせないため笑顔を絶やさないが、顔が引きつっている。


「手早くやってくれ……私はどうも医者というのが苦手でな」


「誰か大麻……いや芥子持ってないか? フロリーナ様に吸わせてやってくれ」


「俺のがあるぞ」


 痛みを軽減させようとしたのだろう、医者が周囲の兵士に尋ねると1人の兵士が名乗り出てきた。


 手にはトウヒの木でできた筒を持っている。


「いや、それはお前達で使ってくれ。より重症な人間に」


 ーーそれは私も使いたくないしな。


 

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