第52話
シセルが大急ぎで敵の方へと向かっているとシェフィール兵に追い回されている老人が見えてきた。
ーーあの分だとしくじったなジジイ。
今のところシセルの方はシェフィール兵に見つかってはいないが、これでは警戒されているだろう。
予定変更だ。
来た道を戻って身分の高そうな、あるいは指示を出している人間を片っ端から狩る。
そして走っている老人は……まあ放っておいてもどうとでもなるだろう。
矢筒に矢が見えているし。
「じゃあなジジイ。自分のケツは自分で拭いてくれ」
聞こえるわけもないがシセルはそう言い残し、フェーンの方へと逆戻りしていった。
一方フェーンのフロリーナ達……
向かい来るシェフィール兵達は歯噛みするような状況に陥っていた。
「ええいクソ!! また地下に潜りやがった!」
「上に出てた奴等は全員逃げちまったぞ」
「追撃隊を向かわせろ! 逃がすと武器を持って襲ってくるぞ!」
フェーンのズウォレス兵はそのほとんどが地下に逃げた。
井戸の中、地下倉庫、その他いろいろあるだろうがいかんせん探すにも潰すにも時間がかかる。
シェフィール兵達は怒り狂った。
「建物の中をしらみつぶしにやっていけ!」
1人がそう叫ぶと、シェフィール兵達は手分けして家の中に入って行く。
床におかしいところは無いか、木箱や樽は?
人が入れそうな空間は徹底的に調べ上げる。
すると……
「いたぞ餓鬼だ!」
ある家の中に恐らくシェフィール兵の矢を受けたのだろう、10歳にも満たないような男の子が肩から血を流しながら家の隅でうずくまっている。
武器こそ持っていないように見えるがまずズウォレス人に間違いない。
「やめろ! まだ子供だろうが!」
「馬鹿言うな! 俺達に矢を射かけてきたズウォレス兵には餓鬼だって混じってた。そいつも立派な兵士だ」
多少善心が残っていたシェフィール兵の1人が今にも切りかからんとする仲間からズウォレス人の子供を庇う。
実に涙を誘う。
「俺にも国に残してきた餓鬼がいてな……ちょうどこれくらいだ」
「そんな餓鬼助けてどうなる。早くぶっ殺しちまえ」
「せめて安全な場所に逃がしてやるよ。それまでは連れて歩く」
呆れながらも少しづつ子供を許そうとしていた瞬間だった。
「おじさん……ぼくも殺す?」
「……殺さねぇ。少なくともこの場では守ってやる」
自分を抱きかかえたシェフィール兵に子供はそう言った。
そして言いながら、子供はシェフィール兵の首筋に針を突き刺した。
「がっ!? テメェ何を……」
「トリカブトとクサリヘビ、そのほかもろもろ」
抱きかかえていた子供を半ば投げ捨てると兵士の顔色が変わり始め……
「じゃあね、やさしいおじさん」
呆気にとられる兵士を尻目に、子供は家を飛び出して逃げた。
「……馬鹿な奴だ。おい助かるか?」
「無理だ、何の毒かもわからねぇなら吸い出すのもできねぇし」
「年端もいかねぇ子供までこれか。ズウォレスの指導者はーー」
悪魔だ……




