第14話
「敵の生き残りを探せ! 負傷兵は港に行くんだ!」
戦闘が終結した後、シセル達は負傷兵の救護と生き残りの掃討に追われていた。
使えそうな矢、鎧、剣の回収、そしてまだ息のあるベルトムント兵は見つけ次第片っ端から殺されていく。
死体の下に隠れて難を逃れようとした者もいた。
だがそれで見つかろうものなら……
「やめろ! やめてくれ!!」
こうして無様にわめき散らしながら引きずり出され……
「お前らは全員こうして……」
上に馬乗りになって首筋に短剣を突き立てるズウォレス兵。
「ぐがっ……あ」
「血反吐吐きながら死んでいくんだよ」
口と喉からおびただしい量の血を流し、苦悶に満ちた表情を浮かべながらそのベルトムント兵は息絶えた。
とても酷い光景だが周囲のズウォレス兵は全員が笑いながら見守っていた。
ただ一人の例外を除いて。
「うえぇ。げほっげほっ」
たっぷりと血を吸った地面に手をついてこみ上げてくるものを遠慮なく吐き出すのはシセル。
死体と血、そして人を殺した嫌悪感、それらに耐えられず思わず吐いてしまったが、そんな人間は周りにはシセルだけしかいない。
「大丈夫か? 辛そうだが」
そんなシセルの状態を見かねて味方が背中をさすりながら話しかけてくれた。
吐瀉物まみれの口を拭って顔をあげてみると、そこにはどこかで見たことのある顔があった。
「アンタは確か……」
「ああ、自己紹介がまだだったな。俺はブラーム、元ズウォレス軍の弓兵だ。宜しく」
ーーああそうだ、こいつはフロリーナの護衛だ。
シセルはフロリーナといつも一緒に居た護衛のことを思い出していた。
あの時ただの護衛ということで注視していなかった為に思い出すのが遅れた。
「なかなかいい腕をしてるな。弓を置かずに戦ったのはお前くらいだ」
「弓兵が弓を置いたらおしまいだ」
「ハッハッハ! そうだな。その通りだ」
口元を押さえながら笑うブラームの姿は、どこか愛嬌がある。
「それで、これからどうするんだブラーム?」
「船でメラント島に向かう。そこでようやく休めるぞ、さぁ行こう。フロリーナが港で待ってる」
穏やかな笑みを浮かべながら手を伸ばしたブラーム、その手をシセルはしっかりと握った。
「行こう。もう家には戻れないだろうしな」
「ん? 浮浪者だって聞いてるぞ? 洞穴みたいな場所に居たんだろう?」
「余計なお世話だ」
茶化すブラームに少し眉をしかめながらも、シセルは歩き始めた。
フロリーナが待つホルウェ港へと。




