第45話
シセル達はというと……
「この森に入るのも2年ぶりか、懐かしいな全く」
「黙って進め」
シセルと老人、その他50名のズウォレス軍の弓兵はフェーンの北側の森を進んでいた。
シェフィール軍の突撃に合わせる、もしくは不意打ちをするべく森のなかを進み弓の射程まで近づいていく。
「確か2年前は儂に負けて、ベソかきながら倒れてたなシセル」
「黙れ」
思い出したくもないことだ。
「あの時儂が助けてやらにゃお前はベルトムントにぶち殺されるか出血で死んどったぞ?」
「今は関係ない」
老人の昔話など聞きたくもない。
是非ともやめてほしいものだ。
「シセルさん、そしてご先代様もこれをつけた方がいい。同士討ちを避けられる」
「………………」
「あー………………」
隣を歩くズウォレス兵が渡してきたのは赤いズウォレスの旗。
腕章代わりにズウォレス兵が身につけるものだ。
かつてはシセルもこれを身に付けていたが……
「俺はいい。ジジイにでも付けてやってくれ」
「儂も要らん。ソイツは目立つからな」
シセルは目立つから以外に付けたくない理由があった。
ーー民間人を虐殺して歓喜するような連中と同じと思われたくない。
思い出されるのは2年前のベルトムント。
老若男女、一切合切、ただひたすらズウォレス兵は罪の有り無しに関わらず殺し続けたのをシセルはよく見てきた。
「そういやフロリーナは餓鬼をどうしたんだ? まさか殺したのか?」
シセルは気をまぎらわせようと別の話題にすり替えた。
フロリーナの子供2人について……
「フロリーナ様のご家族ならベルトムントに逃がしたと聞いています。どこかあてがあるとか」
「なるほど」
自分の子供だけは何がなんでも守るつもりのようだ。
「まぁ、仕方ないわな。守りきれる自信もないだろうし」
「父親でもいれば話は別だったろうにな」
軽口を叩いたシセル、だが次の瞬間に彼は後悔することになる。
「まあ、メラント島で死んだらしいからな。確か名前はクラウス……だったかな?」
「はっ?」
ーーメラント島で俺が仕留めた指揮官……あれがフロリーナの夫?
フロリーナが一瞬だけシセルに見せた表情を思い出す。
「どうしたシセル?」
「……いや、なんでもない」
ーー俺が、あいつらから父親を奪ったのか。




