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元弓兵は帰れない。  作者: 田上 祐司
第二章 呪われた黄金
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第44話

 ズウォレス兵の鬨の声はシェフィール軍の居る草原にも届いた。


「耳障りな声だな全く」


「ああ、けどまぁ気長に待とう。結構な規模の都市だが、あれだけの人数がまともに食えるだけの食糧がある訳がない。数日放っておけばジリ貧さ」


「まぁな」


 固いパンを齧りながら、シェフィール兵は話を始めた。


 シェフィール軍は現在、様々な都市から略奪した食糧に加え本国から船で絶えず食糧、及び武器を輸送させている。


 その量は凄まじく、この戦争でシェフィール側の兵士が飢えることはまずないと言われるほど。


「ただ、この後どうするんだろうな?」


「この後?」


「ズウォレスを潰した後だよ。ズウォレスは船に攻撃されたのが理由ってので攻められたけどシャルロワにはそんな理由がないぞ?」


「そういやそうだな」


 固いパンを葡萄酒で無理矢理胃に流し込んでいると、そこに鎧姿の兵士が現れた。


「理由はこうだ。我々シェフィール王国の船を攻撃した投石機、あれにはシャルロワ王国の紋章が焼き印されていた。ズウォレスはどことも同盟を結んでいなかったはず。これは一体どのような理由か。とまぁこういう具合だ」


「え、エルフィー伯爵」


 白髪混じりの茶髪を弄りながらエルフィーは現れた。


「戦争の理由など、いくらでもでっち上げることができる。お前達兵士は気にするな」


 エルフィーはそう言うと、兵士が齧っていたパンを取り、口に運んだ。


「……不味いな。なんだこれは? こんなものでお前達は満足なのか?」


「満足と言えば嘘になり、それなりと言えば嘘になります」


「つまり不服か。よろしいこの戦争が終わったら、もう少し飯の味に拘れと私から進言しておこう。取り上げて悪かったな。これは返す、それと詫びだ」


 エルフィーは兵士にパンを返し、ついでと言わんばかりに銀貨を数枚渡した。


 渡された兵士はというと、平静を装ってはいるが喜びを隠しきれておらず口角が持ち上がっている。


「ではな。お前達の奮戦を期待する」


「ハッ! 尽力いたします!」


 




 その頃、シャルロワ王国では……


「し、将軍! シェフィール軍はもうすでにフェーンまで侵攻しています! このままではーー」


 装飾などはほぼ見られない粗末な石造りの部屋にあわただしく入ってくる革鎧の兵士。


「分かっている。全く、シェフィールの田舎貴族めが、調子に乗りおって」


 シャルロワ軍の将軍、ヨハン・マースは自分の屋敷の一室で鉄の鎧を付けながら報告に来た兵士を鬱陶しそうに相手をし始めた。


「国王陛下からはシェフィールの使者にはどう返答しても戦争になるから準備をしろと言われた。かき集められるだけの兵士を集めろ。用意が整い次第ズウォレスに向かう。フェーンで戦っているズウォレスに加勢するぞ」


 ヨハンの言葉に、報告に来た兵士は目を丸くしながらその場に立ち尽くした。


「どうした?」


「あ、ああいえ。ズウォレスを助けるのですか? 私は今回でズウォレスを見捨てるとばかり思っておりましたが」


 ああなるほど、ヨハンは心のなかで合点がいった。


「ズウォレスの鬼畜極まる戦いぶりを見て、恨みを買うよりは味方として扱ったほうがまだよいと判断されたそうだ」


「は、はぁ……」


「お前は下がれ。時間はないぞ急がせろ」


 兵士は礼をするとその場を去った。


「さて、ズウォレスの底力はどんなものか……」


 1人残された部屋の中では鎧の擦れる音だけが響いていた。

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