第43話
翌日の早朝、シェフィール軍がフェーンへとたどり着いた。
「あれがズウォレス人の犬小屋か、随分と大仰なもんだな」
「ああ全くだ」
シェフィール軍の兵力は約3万、弓兵が約1万、槍と長剣で武装した兵が2万、残るは占領した都市の防衛の為に置いてきた。
つまるところこれがシェフィール軍の出せる総戦力であり、フェーンの南にある草原に居座った。
「手っ取り早く正面突破……などということは考えない方がいいな」
優雅に馬に乗りながら、略奪品の中にあった葡萄酒を飲むのはシェフィール軍の指揮官、エルフィー・アシュフィールド。
彼の頭にあるのはどうやってここを落とそうかという事といかに安く済ませられるかだ。
ーー民間人と兵士の混成であの一斉蜂起をさせられたのは普段の教育と指揮官の優秀さの表れだろう。一筋縄ではいくまい。
「どうされますか?」
馬に乗りながら白髪交じりの茶髪をいじるエルフィー。
彼が一番に出した指示が……
「バリスタ、投石器の射程外で待て。まずは簡単な作戦から行こうではないか」
「承知しました」
対するズウォレス軍……
「敵が来たぞ! すげぇ数だ!」
「いくら居ようが関係ない! 全員命がけで戦え! そして生き延びろ! そして子孫たちに伝えるんだ。『俺たちは誇りと故国の為に戦った英雄』だとな!」
太陽が昇り切っていない薄暗い早朝、ズウォレス軍の見張りがシェフィール軍の存在を伝え用意していた兵士達は手に手に武器を掲げる。
「正面の兵士以外は建物の影に隠れろ! 正面の兵士は敵が正面を突破する前に退却、建物の中に籠城しながら矢を射れ!」
結局集まったズウォレス軍の兵力は3千、正規兵が半分以下でほとんどは民間人だ。
だがシェフィールの圧倒的な数を前に、彼等ズウォレス人は一歩も退くつもりはない。
兵士達は弓を、ただの男達は槍を、女は投石機を、そして子供は短弓を。
全員が戦うつもりだった。
「諸君! 怯むでないぞ! ここで耐えれば、道はある!」
先頭で長剣を掲げる布鎧姿のフロリーナ。
黄金色に輝く髪をなびかせながら、雪の積もった地面に大きな旗を突き立てる。
血のように赤い布地に向かい合った獅子の旗……ズウォレスの国旗を。
「我等ズウォレス人は戦わずして滅びない! 我が同胞達よ! 奴等に……シェフィール兵に我等の意地を見せてやれ!!」
ズウォレス軍の発した雷の如き鬨の声がフェーンの街を駆け巡った。




