第42話
夕暮れ時、フロリーナは兵士……いやズウォレス国民を所々に雪の積もったフェーンの広場に集めて演説を始めた。
陣地の構築や物資の運搬、それが終わった後の招集であったが多くのズウォレス人達は興味津々といった表情であった。
腕の旗を外し、フロリーナが登場するや否やそれを一斉に振り歓声を上げるその光景は異様の一言だ。
「諸君! 親愛なる同志諸君! 並びにズウォレス共和国に忠誠を誓った国民諸君。我等ズウォレス人の名誉を守り抜く機会がやってきた」
木箱で作った台の上に乗ったフロリーナを前に静まりかえるズウォレス人達。
誰もが期待の眼差しを向ける中、シセルと老人は冷めた視線を送り続けている。
「2年……『炎と灰の戦い』……そう呼ばれた戦争からもう2年だ。私はずっと、ずっと諸君と共にあった。不屈の精神で悪辣なベルトムント人を追い出し、戦禍に飲まれた街を復興し、厳しい冬を乗り越えた。しかしその努力を踏みにじるものが現れた、シェフィール人だ。奴等は我々に永遠に消えない憎悪と闘争を植え付けた。奴等は民衆を戦争へと駆り立て平和を求めない。奴等は蛮族だ! 今は東部を、そして明日にはここ西部も攻め落とそうと向かってくるだろう。しかし我々は奴等の侵略を許さない! 断固としてこれを拒む! 子供も、農民も、労働者も、そして兵士達もすべてが一丸となって再び戦いに赴くのだ! 諸君! 私と共に行こう! 我々の国は一度は滅びた、だが二度目はない! 我々は故国を守るために再び弓を引くのだ! 奴等シェフィール人に自分たちがどれほど甘い考えで侵略してきたのかを教えてやれ! 我々の矢の鋭さ、我々の怒り、我々が作り上げた地獄を奴らに、シェフィール人共に見せてやれ!」
演説が終わった後、1日の疲労を吹き飛ばすかのようにズウォレス人達は熱狂した。
その場に居るズウォレス人達は2人を除いて自らと目の前に居る指導者を誇った。
我らはズウォレス人であると、我らの指導者こそ完璧であると。
ーー仕事で疲れた後に、分かりやすく敵を示して憎悪で士気を上げるか。
シセルはフロリーナを見て、拳を握りしめた。
ーーフロリーナ、お前はやっぱり『悪魔』だよ。




