第41話
さて、ズウォレス兵に案内されフロリーナと直接面会することができたシセルと老人だったが、シセルはフロリーナに近づくや否や両肩を掴んで鳩尾に膝蹴りを叩き込んだ。
「かはっ……いきなりやってくれるな……シセル」
他のズウォレス兵やブラーム、ラルスの居る前でこの始末。
周りの兵士達は剣を一斉に抜き、それをブラームがなだめ、ラルスと老人は止めに入ろうと割って入った。
「おおい待て待てシセル! 鳩尾に膝はやめとけ! 下手すりゃ死ぬ!」
もう一発叩きこもうとしたシセルを老人が止める。
そしてシセルの顔を覗き込んでみると……彼は仮面のような無表情。
死んだ青い瞳を細めながらフロリーナを見ていた。
「平和を維持するために尽力すると言っていたな、あれは嘘だったのか? ここに来るまでに子供が弓を持っていたぞ。あれがお前の言うところの平和の維持のための策か? 答えろフロリーナ」
「何か誤解しているよシセル。私は……」
「ズウォレス側からシェフィールに戦争を仕掛けたと聞いている。お前の指示だろう。目的は一体なんだ領土か? それともシェフィールで奴隷狩りでもするつもりか?」
答えによっては殺す、シセルの顔にはそう書いてあった。
「待ってくれシセル。それは違う。それは……」
「俺のせいだ」
あわてふためくブラームを押しのけ、赤毛の男が姿を現した。
ラルスだ。
「ズウォレスの北西部で金が見つかってな。俺はその金を使ってシャルロワから兵器を買いあさった。そして村の人間が近くに最近出没していたシェフィールの船を沈めた。それがこの戦争の始まりだ」
「お前が……」
ーー南部の部隊を率いていた程の人間がこの始末とは。
「シセル、今回の件はフロリーナの責任じゃない。無論指導者としての責任はあるが……」
「そんなクソッタレな理由で、また国が灰になるのか」
しかも今度は逃げる敵を追いかけるだけではない。
向かってくるシェフィール軍を倒さなければならないのだ。
「シセル、また力を貸してくれないか? 今は1人でも強い兵士が必要だ」
腹を押さえながらフロリーナはそう言ってきた。
「……また人殺しか」
2年前のベルトムントとの戦争で散々人を殺してこの始末。
フロリーナに関わってもろくなことがない。
だが今さらアーメルスに戻っても死ぬだけ。
それにシェフィールには恨みがある。
「飯と酒、それと薬を保証してくれ。あと金も」
「兵士にはどれも支給される、心配するな」
シセルの答えにフロリーナは笑った。




