第13話
「押し戻せ! 俺達なら出来る! 奴らを地獄に叩き込め!」
ついにぶつかり合う両軍、ズウォレス軍は主兵装の弓を置き長剣を抜き放ってベルトムント軍に殺到している。
ベルトムント兵の盾は返り血と己の血で汚れ、そこかしこに真新しい死体が山を成して転がり、流れ出た血が地面を濡らして池を作る勢いだった。
ズウォレス軍の方が圧倒的に数で勝っていたが、それでもベルトムント軍は萎えることなく奮闘した、ある者は奪い取った剣で斬りつけ、またある者は折れた槍を振り回し頭を殴りつける。
敵も味方も入り乱れての地獄のような大混戦と化した。
「一人でも多く突破しろ! ズウォレスの悪辣さをつたえーー」
そう叫んだベルトムント兵の額に剛速で鋭い矢が突き刺さる。
「相手をしっかり見て斬れ! 同士討ちをするなよ!!」
矢を放ったのはシセルだ、額に汗を滲ませながら長い黒髪を振り乱し次の矢をつがえる。
フロリーナから貰った鉄の矢尻が付いた矢、彼女の説明通り鎧諸共撃ち抜く威力だ。
「最後の一人だ! やっちまえ!!」
そう叫ぶ兵士の前に現れたのは右腕をなくし幽鬼のようにさ迷う最後のベルトムント兵。
彼に向かってズウォレス兵が群がった。
「その首貰ったぞ!」
最後の一人が討ちとられた後、ズウォレス兵達は天に向かって声の限り叫んだ。
それはとても小さな勝利だったが、国が崩壊して以来初の勝利であった。
一方フロリーナ達は……
「邪魔な死体は海に投げ込め! もたもたするな!」
そう指示を出しているのはフロリーナ、彼女と彼女に指揮されたズウォレス兵は向かってきたホルウェ港の住人と残ったベルトムント兵を殺し海へと死体を投げ込む。
そして流れ出た血は海を赤く染め、鮫を誘いまるで世界の終りのような色へと変えた。
「フロリーナ! 向こうは決着がついた! もうすぐ味方がこっちに向かってくるぞ!」
慌ただしく駆け寄ってきたズウォレス兵の一人がフロリーナにそう報告してきた。
「よし櫂を持て! いつでも出港できるように待機しろ!」
「分かった!」
「水夫は足りているか? フロリーナ」
「何のためにこれまで訓練したと思ってるんだ? 十分やれる」
そうフロリーナは言ったがはっきり言ってそれは強がりだ。
実際の所は練度不足で帆の張り方もおぼつかない。
想定を下回る有様であったが、シセル達ズウォレス人の奮戦のお陰で時間の余裕はまだあった。




