第40話
ライデン城の執務室にて……
「で? のこのこ逃げ帰ってきたわけか」
椅子に座ってどこかから持ってきた人形で遊んでいるシェフィールの指揮官、エルフィー。
皺まみれの顔に更に皺を作る彼、今彼はとても不機嫌であった。
「申し訳、ありません」
ズウォレス軍による一斉蜂起により、シェフィール軍はそれなりの損害を被った。
少なくとも先遣隊であるエルフィーの顔を潰すには十分な程の。
「一応聞くが兵士の数は十分だったか? 不足していたということは?」
「い、いいえそのようなことは決して!!」
意地の悪い質問をしてみると、報告に来た兵士は唾を飛ばす勢いで返してきた。
「……もういい、報告を済ませろ。ズウォレス軍は一体どこから沸いた?」
「数名の兵士からの報告によりますと、使われなくなった地下水道跡地や井戸から出てきたようです」
「ほほう? なら今度からは井戸の中に人が居ないかお伺いせねばならんな。『やぁズウォレス人よ、住み心地はどうだい?』とでも言ってやろう」
人形をズウォレス人に見立て、エルフィーは高い声でそう言った。
「それと、捕虜に薪を取らせに林や森に行かせたところ武器を持って攻めてきたところもあるそうで……それで奪還されてしまったところも」
「ズウォレス人は皆訓練を受けた兵士なのか?」
「恐らくはある程度の訓練、教育の類いは受けているかと。指揮には忠実で、村の奪還が達成できなければ逃げるように言われているそうです」
ーー面倒な奴等だ。
ただの民間人と同じ扱いをした結果かなりの損害がでてしまった。
エルフィーも認識を改める必要がある。
「そうか。やれやれ、兵士でないただの民間人ならば捨て置いたものを……ズウォレスの代表? いや指揮官か? フロリーナとか言う女はひどいことをする」
「何者なのでしょうか?」
「ズウォレス王国の王族や貴族連中にそんな名前の人間はいないはずなのだがな……まぁ恐らくは軍人崩れか……それとも貴族の隠し子だろうさ」
「なるほど……」
「よし、貴様に指令を与えよう。そのフロリーナを捕まえ私の所に連れてこい。口が聞ければ手足の無事は問わん」
「は、はぁ……」
少しだけ、ほんの少しだけエルフィーは興味が沸いた。
正規の軍人でもない民間人をそうなるように教育し、羊である民間人を狼に変えた国の代表……
そんな女がどのような顔をしていて、どんな思考をしているのか、みてみたくなった。
執務室を出る兵士、そしてそれとは入れ違いに別の兵士が執務室に入ってきた。
「報告します。ズウォレス軍の合流する場所が分かりました」
「ほう? でかした。でどこだ? 地図で示せ」
手にしていた人形を適当に放り投げ、机の上に置かれた地図を指差す。
「フェーンか。さほど遠くないな」
兵士が指差した場所を見て、エルフィーは眉を寄せた。
「偵察に向かった兵士の話では既に2千程の兵士が集結しているそうです」
「2千……2千か……」
どうせ他にもわらわら沸いてくることを考えても、少なすぎる兵力だ。
ましてや訓練を受けているとはいえ民間人に少々毛が生えた程度。
そんな兵力でズウォレスは何をしようと言うのか?
「まぁいい、早急にここを落とすぞ。ズウォレス人も合流する場所が焼け野原になっていれば少しは穏やかな心を取り戻すやも知れんからな」
フェーン、そこに行けばまだ見たこともないフロリーナの姿が見られるかもしれない。
エルフィーは1人心が踊っていた。




