第39話
ズウォレス軍の集結地点、フェーン。
シセルがフロリーナのいる本隊に合流を果たしたのは追跡を始めて翌日の朝だった。
冷え込むからと頭の先まで毛皮を被ったシセルと老人、いつぞやぶんどった葡萄酒を飲みながら追跡しているズウォレス兵の後を追う。
「なるほどフェーンか。おお、こりゃ結構な数だ」
「……4千程か? 民間人も大量に混じってるから、多分もうあと3千くらいはいるだろうな」
フェーンには東西南北様々な方角から武装した部隊が集結している最中。
遠目に見ても分かるくらいには大所帯だ。
革鎧も着けていない麻服に毛皮を着込んだだけという軽装の人間が殆どだったが、中には大量の荷車を押しながらフェーンに入って行くズウォレス人達もいる。
そして都市の周囲には木を尖らせ突き刺して馬を防ぐための柵や土を掘って堀を作成している真っ最中だ。
「ここに籠るつもりだな。だがあの程度じゃシェフィール軍は押しとどめられんだろう。一体何が目当てだ?」
「時間稼ぎだろう。いざとなればベルトムントに逃げ延びることぐらいは考えてるだろうさ」
「で? 儂らはどうするねシセル」
「無論行く。真正面からな。フロリーナもどうせあそこにいる」
フェーンに近づいていくと、何人かの兵士に取り囲まれ弓を向けられた。
旗を腕に着けていないのが悪かったのだろう。
「貴様等は何者だ!? シェフィールの密偵か!?」
シセルも多少名が知れているとはいえ直に顔を見ている人間などたかが知れている。
老人に関しては名前だけで顔は知られていない。
そんな2人が正面から堂々といけばこうもなる。
「おおいシセル、どうするね?」
「お前等どけ。俺はシセル。お前たちの指揮官、フロリーナに会いに来た。いやぶん殴りに来た」
「シセル? お前いつからそんな馬鹿になったんだ?」
なんで火に油を注ぐような真似を平気でするのか。
シセルの頭は大麻と芥子でおかしくなってしまったのだろうか?
「今の俺に弓を向けるな、殺すぞ貴様等」
「おおい待てシセル! やめろ本当に!」
拳を固め始めたシセルと怒り狂ったズウォレス兵の間に入る老人。
この後シセルの顔を知っている人間が割って入るまで、老人は双方から射られるのではと戦々恐々していた。
その頃、シェフィール軍は……
「おいここだ! あの野郎共こんなところに拠点を作ってやがったぞ!」
既にズウォレス兵が物資も何もかも持ち去った後の地下水道跡地。
シェフィール兵の1人がそこを発見した。
「くそ……もぬけの殻だ」
「誰も居ないか。うん? 何だこれ」
中を捜索していたシェフィール兵が古びた毛布と一緒にある物を見つけた。
人間の身長程もある木の板なのだが……
「何か書いてあるぞ? えーとなになに……?」
『天然痘、黒死病患者診療所』
その文字を確認したシェフィール兵達は一目散にその場を後にした。




