第34話
戦闘を終えたシセルと老人が合流する場所に選んだのは先日戦闘を行ったルメール村、の中にある古びた井戸であった。
この井戸は普通に覗き込んだだけではただの井戸にしか見えないが、実は底のほうに横に向かって穴が掘ってあり地下に続く通路があるのだ。
光が漏れないように上に下に右に左に、曲がりに曲がった大人が頑張れば通れる位の通路を進んでいくと、ある程度開けた場所が見えてくる。
「おお不味い……塩っ辛い……油がくどい」
「言いたいことは言い尽くしたか? ジジイ」
シセルと老人はそこに身を寄せ暗い地下で焚き火しながらルメール村に居たであろう住人が用意していた食糧を食べていた。
鉄のように固いパン、塩漬けの鱈、油漬けで名称の分からない肉。
どれも普通に食べるようなものじゃない。
「儂は7人と見張りを適当に殺しておいた。お前はどうだ?」
「……指揮官は殺せてない。しくじった」
「おいおい、何のためにあのクソッタレシェフィール人が集積された肥溜めまで行ったんだよシセル。しっかりしてくれよ」
「うるせぇ」
正直今回のシセルの戦果はひどいものだ、指揮官も隊長格の兵士も狩れていない。
倒したのは全員雑魚ばかり、あんなものはいくらでも替えが効くだろう。
焚き火に照らされた老人の表情が曇る、深い皺が更に増えた。
「とりあえず今後はどうする?」
「フロリーナが生きてるなら、必ず何か行動を起こす筈だ。そして恐らくそれは大事な場所に集中してやるか既に占領された村を一斉にやるかのどっちかだ。それに合わせる」
「合わせるったって……どうやって?」
「待つ」
老人は心のなかで呆れた。
「まあ、目星がつかねぇなら……そうするか。それじゃお休み」
「ああ」
一方シェフィール軍は……
「くそったれ、何処にも居ないぞ」
雪が止んだあと、敵の捜索を開始したシェフィール軍だったが、シセルと老人の姿は何処にもなかった。
「ズウォレス人は霞か何かなのか? 今回の敵といい、他の村の人間といい逃げるのが早すぎる」
「ああ、あいつらは後退するのだけは一人前だ」
「感心してる場合か!? 敵を取り逃がしたら俺たちの給金が減らされるんだぞ! 分かってんのか!?」
苛立ちを隠そうともしないシェフィール兵も居たが、どうしようもない。
足跡でもあるかと思ったが雪で消えてしまっている上に痕跡らしきものも見当たらないのだ。
「いっそ犯人は殺したと嘘でもつくか?」
「どうやってつくんだよ。確実に死体を見せろと言ってくるぞ」
「わざわざ死体じゃなくても大丈夫だろ。耳とか指とかでもいいはずだ」
仲間の言わんとすることが全く分からない。
「戦死した上官殿の耳を借りよう。なにバレやしないさ」
「お前天才だな!」
その後この兵士達は戦死したシェフィール兵の耳や指を切り落とし意気揚々とエルフィーの下へと報告に向かって行った。
そして嘘は即座にバレた。




