第31話
老人が城に侵入して暫くすると、中庭付近で騒ぎが起きていることに気が付いた。
ーーなんだ?
窓から中庭に目を向けてみると慌ただしく動き回るシェフィール兵の影と、なにやら松明などでは得られないような光量がある。
おまけに何かが燃えるような臭いも。
「火を消せ!! 飯が全部燃えるぞ!!」
「誰かが酔っ払って火をつけやがったんだ!!」
ーーあーあ。やりやがったよ。
兵士の声に聴き耳を立てて得た情報によると、どうやら中庭の隅に置かれていた木箱や薪、樽の類が燃えているようだった。
それも一つだけでなくいくつもだ。
ーーシセルの野郎派手にやってやがるな。
老人のこれからとるべき進路が決まった。
逃げる。
ーー間違いなく兵士の動きがあわただしくなる。外に出て木の陰にでも隠れよう。
燃え盛る炎を尻目に、老人は窓から外に出た。
「ああ、冷えるなぁ」
その頃、シセルは……
ーー意外と消火が早いな。とっとと移動しよう。
シェフィール軍の集めていた物資に放火を終えた後、シセルは城の外に向かい、雪に凍えながら木の影から様子を伺っていた。
指示をしている人間を片っ端から見つけて狩る為に。
だがシセルが予想していたよりも早く消火作業が終わりそうなのだ。
そこは腐っても軍という事であろう。
ーーあれかな?
そろそろ移動しようかと思っていた矢先、何やら兵士に説教を垂れている兵士が雪の切れ間に見えた。
兜を脱いでいるが、雪でも目立つ赤い外套を風になびかせ他のシェフィール兵よりも多少いい装備をしている。
ーーまずは1人……と。
内心ほくそ笑みながら矢筒から取り出した矢を弓につがえ全力で弓を引くシセル。
目標に向かって狙いを定め、後は手を放すだけ。
そうして放たれた矢は風を切り、真っすぐに放たれ……
その矢は一切ぶれることなく……
目標の目の前に居たシェフィール兵に当たった。
「はっ?」
思わずシセルの口から間抜けな声が漏れた。
「ズウォレス兵だ! あっちにいるぞ!」
それなりの距離があり、視界が悪かったとはいえ一緒に居た兵士に誤射。
その事実がシセルを動揺させた。
ーーああ糞!!逃げるか。
追ってくるシェフィール兵に極力気付かれないよう、音を殺して走った。
「どうやらネズミが忍び込んだようです。恐らくはズウォレス兵でしょうが……まあ問題はないかと」
ライデン城の中で呑気に本を読んでいたエルフィーの元に側近が報告に来た。
「そうか、じゃあ呑気に酒を飲んでいる馬鹿どもに伝えてくれ。取り逃がしたら減給するとな」
「具体的には……どのくらい?」
「半分。得た戦果も考慮しない」
側近は全力で他の兵士達に伝えに行った。
「やれやれ、どうにも戦争を経験していない時間が長いと腑抜けになる奴らが多くてかなわん」




