第25話
見張りは何をしていたのか?
そう思ったシェフィール兵は少なくなかっただろう。
「クソ! ズウォレス人がどこかにいるぞ! 警戒しろ!!」
ルメール村に居たシェフィール兵は慌てて周囲を警戒する。
だがどこにも人影のようなものはない。
「……どこだ? どこに」
建物の中に隠れながら、窓から顔を出したシェフィール兵がいた。
次の瞬間には額を射抜かれて息絶えたが。
「どうなってる? ズウォレス兵のまともな戦力はベルトムントとの戦いで死んだはずだろう?」
倒れた仲間を見ながら、シェフィール兵が固唾をのむ。
僅かに出た頭や盾からはみ出した腕や足に正確に命中させられる技能をもった弓兵がここにいる。
その事実がシェフィール兵達に恐怖を与える。
「『ズウォレスの黒狐』だ! 生きてやがったんだ!!」
「落ち着けよ。相手はどうせ1人か2人だ」
他の仲間と比べ落ちついたそのシェフィール兵は恐らく村の外に居るであろう敵を分析していた。
射ってくる矢が少なすぎるし、何より先ほどから射ってきている方向が同じだ。
村全体が包囲されているわけでもない。
「盾で頭と胸を守れ。動き続けて的を絞られないようにしろ。俺の合図で北に向かって一斉に突っ走れ。動く奴が居たら躊躇するな」
同じ建物に居た3名の仲間に合図を送り一斉に飛び出す。
飛び出した瞬間、仲間の盾に長い矢が突き刺さったが気にしない。
一気に正面の茂み目掛けて突っ込む。
ーー居やがった!
居た。
茂みの中で迫るシェフィール兵に弓を向ける長い黒髪の男が1人。
仲間の仇だ。
「あっ! 逃げやがった!」
「待て!」
「ああ糞……こっちにも1人いやがるな」
足から血を流しながらルメール村の南側で倒れているシェフィール兵。
何人か彼を助けに仲間が来ようとしていたが、飛び出した瞬間頭を射られことごとく失敗に終わっている。
足を射られたシェフィール兵は餌として使われているのだ。
「お前等! 俺はいいから早く回り込め! 急げ!!」
助けに行けない、そう悟ったシェフィール兵達は矢を射ってきた方向へと迂回しながら走る。
合計5名、うち2名はそれぞれ肩と横腹を射られている。
「男らしくかかってこいこの臆病者が!!」
そう叫びながら長剣と盾で突撃するシェフィール兵。
「ごふッ!?」
叫び、喚き、咆哮をあげながら突撃していた彼だったが、真正面から射られた矢が黙れと言わんばかりに喉に突き刺さった。
「ノア!! お前ってやつは死に急ぎやがって!」
絶対に仇は討つ、その覚悟でシェフィール兵達は向かって行った。




