第13話
「話してないって……いくら何でもそんなわけないだろ! もう2年も経ってるんだぞ!?」
シセルの言葉に、老人は眉を吊り上げながらそう言った。
「だったら確認してみようじゃないか。だがフロリーナが自分の娘にすら言ってないのなら……伏せておきたい事情が奴にはあるんだろう。まぁ察しは付くが、その場合俺は面倒ごとに巻き込まれるのは御免だ。あいつを放り出すぞ」
乱暴にドアを開け、家に入るシセル。
彼はまっすぐにディートリンデの方へと向かい……
「おい餓鬼、お前に聞きたいことがある。なぜベルトムントに行こうとする?」
半分脅すような口調に、ディートリンデはしばしたじろぎながらも真っ直ぐにシセルを見据えながら答えた。
「私の故郷がどうなったのか、それを知るために」
「……お前の母親、フロリーナが教えてはいないのか?」
「お母様からは何も……」
ーーつくづく日向が似合う餓鬼だな。反吐が出る。
そして同時にフロリーナにふつふつと怒りが沸いてきた。
戦争に巻き込みシセルに大麻や芥子まで渡して無理矢理戦わせ人殺しを命令しておいて自分の子供の前では綺麗な母親のままで居ようというのが気に入らない。
「まさか、本当に?」
「言った通りだったなジジイ。約束だ、この餓鬼は放り出す。面倒事は御免だ」
そのままディートリンデの首根っこを掴んで外に放り出そうとしかねないシセル。
老人は2人の間に割って入った。
「……と思ったが、気が変わった。喜べ餓鬼。俺が連れていってやる」
「え?」
身構えていたディートリンデが驚愕に目を見開いた。
「お前にベルトムントがどうなったのか、俺が見せてやる。お前の母親がお前の故郷に何をしたのか、それを俺が見せてやる」
その時のシセルはとても歪んだ笑みを浮かべていた。
同時刻、ライデン城では……
「駄目ですフロリーナ様! どこにもディートリンデ様の姿は見えません!」
守衛の兵士の必死の捜索も空しく、いまだフロリーナ達はディートリンデを見つけられないでいた。
「捜索範囲を広げるか……? いや、人数が足りない。狼や熊に襲われた可能性も……」
執務室の中で地図を睨みながら、フロリーナはぶつぶつと独り言を言っていた。
我が子は何処や?
捜索する場所を決めてその範囲を守衛の兵士に探させているが、それも限界がある。
「おいフロリーナ!」
「……何だ?」
頭を抱えて泣き出そうかというところで、執務室の中に慌てた様子のブラームが入ってきた。
「使者だ! 使者がきた!」
「何処のだ?」
「シェフィールだ!」
フロリーナは更に頭を抱えた。




