第10話
「うおえええええええ……ごほっごほっ」
敵の斥候の所まで慌てて駆け寄ったシセル達。
一人は頭に当たって死亡、もう二人はそれぞれ足と肩に矢が刺さっているのだが……それを見たシセルが盛大に胃の中身をぶちまけた。
吐いて吐いて……挙句胃液が出始めたあたりでやっと落ち着いた。
「大丈夫か? シセル」
「……なんとか、な」
シセルは人を殺すことが完全に駄目になっている。
ーーもう5年も経つのにこの様か……
頭を撃ち抜かれた死体からなんとかシセルは矢を抜き取る。
なんとかつかえそうだが……
矢尻に付いた肉片に思わず顔をしかめた。
「死んじまえ……くそったれなズウォレス人が……」
「ズウォレス人は豚の臭いがするって聞いてたがそれ以上だな!! てめえの母親も臭ぇんだろう!? よく父親はそんなもの抱こうと思ったな!!」
捕虜として捕まえたベルトムント軍の斥候。
適当に腕と足の筋肉を切って動けなくしてあるが……すさまじく汚い言葉だ、ちょっと動けなくしただけなのに。
「港に着いたら話を聞こうか。先に素敵な鳴き声を聞かせてもらってもいい」
フロリーナの物言いに捕虜の2人は額に汗を滲ませた。
「シセル、アンタが『ズウォレスの黒狐』なんだろ? そうとしか思えない技術だったぞ」
一方でシセルはというと、羨望の眼差しを向けられながらフロリーナの護衛にそう話しかけられていた。
「……そんな風に呼ばれてた奴なら確かに居た。だが俺じゃない。行こう、ホルウェ港まで走るんだ」
夕暮れ時……
小高い丘からホルウェ港までを見下ろせる場所にズウォレス軍は居た。
ホルウェ港には案の定ベルトムント軍が駐屯していたがシセルの頭の中に浮かんでいた光景とは全く違う光景が目に入った。
「先に到着していた部隊だ。我々も加勢しよう」
シセルは当初、ズウォレス人は数百人程度の規模だと予想していた。
だが今現在ホルウェ港には……
「なんだこの数は!!」
港を完全に包囲している大量の人、人、人……
翻る旗に描かれているのは赤地に向かい合った獅子。
ズウォレスの旗だ、そして集結した彼らは包囲した敵に攻撃を仕掛けている。
長柄の槍で一斉に突撃し、背後から矢で援護する。
ズウォレス軍の伝統的な作戦だが、これを実行できるだけの戦力がここには集結していた。
「フロリーナ、アンタどれだけの人間に声をかけた?」
「さあ? 数えていないからな」
集結したズウォレス人の数はおおよそで5千はいるだろう。
これだけの数がいるのなら……もしかすると本当に革命を起こせるような、そんな気がしてくる。
「さあ行くぞ諸君! 残飯を残らず平らげろ!」




