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最後の1年なのだから  作者: くろは
7/10

6話

中間テストも3日後に迫ってきており、学校内の雰囲気もソワソワしてきている。

勉強していないと言ってる者、学校に残って勉強する者、中間テストより受験勉強を優先する者など様々である。ちなみに僕は残って勉強する者だ。

といっても大雅に教えてもらってるおかげで焦る必要もなく最後先生に質問するだけだ。


(椿木先生まだいるかな~)


椿木響子先生は3年間ずっと僕のクラス担任かつ苦手な古典担当なのでお世話になっている。授業中に雑談を始めたり私生活の愚痴を面白おかしく話し始めるテキトーな性格だが教え方は分かりやすく、生徒思いの先生だ。生徒人気はかなり高く特に見た目の綺麗さも相まって男子からの人気は高い。

職員室の扉をノックして入室する。


「失礼しまーす、椿木先生いらっしゃいますか~?」


と言って先生を探すが見当たらない。奥にいた先生が職員会議で居ないことを教えてくれた。


「わかりましたー、失礼しますー」

(ん~まいったな…大雅はもう帰っちゃったしな…)


と思いながら教室に戻ると中川さんがまだ残っていた。

夕日が中川さんの光沢のある長い髪を照らして綺麗なブロンドのように輝いていた。幻覚かもしれないが彼女の姿が一つの絵画のように色付いて見えた。そんな姿に見惚れていると…


「あ、小野寺君も残ってたんだ~勉強してたの?」


見惚れていたせいで反応が少し遅れてしまった。中川さんが返事をしないで固まってる僕を不思議そうな目で見つめてくる。ハッと現実に帰ってきて必死に取り繕う。


「あっ…あぁそうだよ!椿木先生に古典の質問しに行ったんだけどいなくてね…」


誤魔化すようにそう答える。

今この教室には中川さんと僕しかいない。連絡を取り合ったりクラスで話したりすることは増えたが二人っきりで話すとなるとどうしても緊張してしまう…


「中川さんも残って勉強してたの?」


とりあえず当たり障りのない話題をしてみる。


「そうだよ、少し気分転換にね」


「……」


「……」


会話が続かない。僕ってこんな会話できなかったっけ…?と自己嫌悪になる。何か話題をと必死に頭の中で探していると中川さんが予想外の提案をしてきた。


「よかったら古典教えましょうか?」


「……え?」


あまりの出来事につい聞き返してしまった。正直都合がよすぎて幻聴が聞こえてしまったんじゃないかと思ったほどだ。


「椿木先生いなかったんでしょ?私でよかったら教えられるかも~って…だめかな…?」


聞き返したせいで不安にさせてしまったのか喋っていくにつれて少しずつ声が小さくなってきていた。不安にさせてしまった自分に嫌気がさしつつ今度はすぐさま答える。


「お願いしますっ!」


自分が思ってるより大声が出てしまってお互いビクッとした後二人で笑いあう。


「あはは、そんな大声で言わなくても聞こえてるよ~びっくりしたじゃん」


夢のようだ。確かに中川さんと放課後勉強できたら楽しいだろうなとか考えることなんていっぱいあったけどそれが実現するなんて思ってもいなかった。

心臓が高鳴る。自分の声をかき消すくらいの大きな音が耳に響いてきて中川さんに聞こえていないか心配になる。隣に座ると音は余計大きくなった。


「どこ質問しようとしたの〜?」


中川さんが椅子の向きを変えて僕の古典のノートを見てくる。急に動いたからだろう、綺麗な長い髪が少し揺れた。


(いい匂いだな・・・)


なんて場違いなことを考えていたがせっかくの機会を棒に振るわけにはいかないと思い煩悩を奥の方に追いやってノートをペラペラ捲る。


「先週やったとこなんだけど〜」


と言って勉強会が始まった。中川さんはとてもわかりやすく教えてくれた。勉強ができることと教えるのが上手いことは同じではないことは知っていたが中川さんはどっちも上手だった。僕も時間が経つとなんとか慣れてきて普段通りに喋ることができていた。こうして緊張と嬉しさが入り混じった勉強会がそろそろ終わろうとしていた。


(ずっと続かないかな・・・)


どうしても終わってほしくないなと思ってしまう。最初は勉強を教えてもらえるだけでも奇跡が起こったと思ったけど時間が経つにつれてもっと高望みをするようになってしまった。


(僕ってこんなに欲張りだったかな・・・)


そんなことを思いつつ、勉強会は終わろうとしていた。


「どう?これで古典大丈夫かな?」


「うん、ありがとう中川さん。おかげでテストも簡単に解けそうだよ」


終わってしまった寂しさを抱えつつお礼を言う。正直めちゃくちゃ分かりやすくて先生に聞くのと大差ないように感じた。


「家に帰ってもちゃんと復習するんだよ?絶対忘れちゃうからね」


このアドバイスに僕はやっぱり優等生なんだなぁと素直に尊敬した。


「わかったよ、せっかく教えてもらったのに悪い点数なんて取れないからね」


といいつつ僕と中川さんは帰りの支度を整え始めた。ふと大雅に相談した日の出来事が頭をよぎった。テスト間近だからからか教室には誰もいない二人っきり、こんな機会はもうこないかもしれない。そう思った時には勝手に言葉が出ていた。


「あっあの!中川さんっ・・・!」


「ん?どうしたの?」


気がついたら言葉が出ていた、当然何を喋ろうとか決めていたわけでもなく頭は真っ白だ。でももう後には引けない・・・でも告白する勇気なんてあるわけがない。


「ぼ、僕と・・・今度遊びに行きませんかっ!」


咄嗟に出たのは遊びの誘いだった。大雅に知られたらヘタレと笑われるかもしれないが僕にはこれが精一杯の頑張りだ。

予想もしてなかったのか中川さんは目を見開いている。そんな様子に僕は不安になり・・・


「あっいや忙しかったら大丈夫だから・・・気にしないで・・・」


と咄嗟に否定しようと喋り始めた僕をかき消すように中川さんが口を開いた。


「じゃあ・・・気になってるケーキ屋さんがあるの、テスト終わったら一緒に行かない?」


と答えてくれた・・・






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