3話
翌日、僕は眠い体を引きずりながら家を出た。
(結局連絡先交換したのが嬉しくてなかなか眠れなかったな…)
それでも今日は中川さんにノートを返さないとだし、何より中川さんと話せると思うと自然と元気が湧いてくる。
そんなことを考えながら大雅との待ち合わせ場所に向かう。
「おう、おはよ」
大雅とは時々一緒に高校に行く時がある。今日は先に大雅が着いて待ってくれていた。
「おはよ~、今日は早いな」
「偶然早く起きてな。…なんか良いことあったか?」
(うっ…こいつ変なとこだけは勘がいいよな…)
「別に…なんもねぇよ」
と目をそらしながら言う。
ただ表情までは隠しきれず昨日のことを思い出して少しにやついてしまう。
「嘘つけ~!顔にでてんぞ~」
と言いながら肘でつついてきた。
「あーもう!…中川さんと連絡先交換しただけだよ」
言ってるうちに恥ずかしくなってしまって顔が熱くなってくる。
それを聞いた大雅はにやぁ~っと笑い背中をたたいてくる。
「お~ついに交換したのか!蓮のくせに頑張ったじゃねぇか!」
「くせには余計だろ!でもありがとな、大雅のおかげで勇気がもてたよ」
「あ~?俺はなんもしてねぇよ。それにまだ連絡先交換しただけだろーが!」
「痛いとこついてくるなぁ…」
「そろそろ学校つくし終わり終わり!」
これ以上しゃべってると他の人に聞かれるのが怖かったので強引に話を切って正門を通ることにした。
校舎に入って下駄箱に向かっていると、ちょうど小倉さんが履き替えているところだった。
「お、大雅に小野寺じゃん。おはよ~!」
「おう、おはよさん。あおい」
「おはよ~小倉さん」
小倉さんは大雅の幼馴染なので僕も大雅と一緒に話すことが多い。
「大雅~せっかく今日朝誘ったのに私より小野寺を選んだのかぁ~!」
と大雅に軽口をたたきながら上履きに履き替えている。
「わりぃわりぃ、明日は一緒に行こうぜ」
「蓮もいっしょに行くか?」
そう振り向いて言ってきた大雅の後ろに一瞬寂しそうな顔をした小倉さんが見えた。
「いや僕は遠慮させてもらうよ。今日は小倉さんに譲ってもらったからね~」
とさっきの小倉さんの表情には気づいていないふりをしつつ冗談交じりに断っておく。
(なぁんで大雅は気づかないかねぇ…いや、幼馴染って関係が崩れるのが怖くて気づこうともしてないだけかなぁ)
と勝手に妄想しながら3人そろって教室に向かうことにした。
「私春華に用事があるから大雅先教室行ってて~」
「あいよ~、んじゃまたあとでな」
小倉さんは中川さんに用事があるようで大雅に荷物を渡して僕のクラスに一緒に来るようだ。
「中川さんに何か用事あるの?」
「うん、新しいケーキ屋を見つけてね!春華と今日一緒に行こうかなと思って」
と話しながら教室に向かっていると教室の外にあるロッカーで中川さんは1時間目の準備をしていた。
「おはよ~春華!」
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ロッカーで1時間目の授業の教科書を取っていると、あおいの声が聞こえてきた。
「おはよ~春華!」
「今日の帰りケーキ食べいかない?新しいケーキ屋さん見つけたんだよね~」
「おはよ~あおい」
振り返りながら挨拶をするとあおいと小野寺君がいた。
「あ、小野寺君もおはよう」
「二人で一緒に来たの?」
気が付いたらそう聞いていた。一瞬、昨日とは違う胸の苦しさが私の心を荒らしていた。
(え…なんで私こんなこと聞いたんだろう)
「いやちょうど下駄箱であっただけだよ~!なぁに?この間告白されたからコイバナに飢えてるのかぁ~?」
とあおいが茶化してくれたおかげで少し冷静になれた。それでも少しモヤモヤする…
「そ、そうそう。大雅と一緒に来てて偶然小倉さんと下駄箱で会ったんだよ。」
メッセージでやり取りしたおかげか昨日よりはしっかり話してくれている気がする。そんな気のせいかもしれない些細な変化も私は嬉しいと思った。不思議とさっきのモヤモヤは消えていた。
「じゃあ僕先に行くね」
といって小野寺君は先に教室に入っていった。
「あ、ケーキ屋だったよね、いいよ~いこいこ!」
「やった!それじゃ放課後迎えに行くから教室で待っててね~」
といってあおいは自分の教室に帰っていった。
教室に戻って席に座ると小野寺君がノートを返しに来てくれた。
「ノートありがとう、おかげで助かったよ」
「よかったです。授業中ぼーっとしちゃだめですよ?」
「うっ…気を付けます」
と喋ってるとチャイムが鳴って担任の先生が入ってきた。
「あ、もうそんな時間か。戻らなきゃ…」
と言って小野寺君は戻っていった。
少しいたずら心が芽生えてしまってメッセージを送ることにした。
〈ぼーっとしないか今日1日見てますからね〉
送った後小野寺君を見るとそのメッセージを確認したのか椅子から落ちそうになっていた。
(ふふふっ…さーて今日も1日頑張ろ~っと)