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最後の1年なのだから  作者: くろは
2/10

1話

始業式が終わって高校3年生の生活にも慣れてきて3週間が過ぎた頃。放課後誰もいなくなった教室で二人は喋っていた。

「はぁー-…あの話覚えてるか?大雅」


僕はあえてぼかしながら横に座っている親友の清水大雅に聞く。大雅は高校1年の時会ってそれ以来なんか意気投合して仲良くなった。

大雅は一瞬考えたあと全てを察したようにため息交じりにこたえる。


「またその話か、中川が告白されたって話だろ」


「あえてぼかしたのにずばずばと全部言わないでくれよ…」


放課後の誰もいない教室とはいえ僕が中川さんのことを好きなことは大雅にしか言ってないので誰かに聞かれてないか少しハラハラする。


「もう2週間くらい前の話なんだからさっさと切り替えろって」

「それに結局玉砕したらしいし…お前的にはよかったんじゃねぇの?」


「まぁ確かにそうなんだけどさ…」

「まだ2週間だよ~クヨクヨしちゃうって~」


これでも話題に出せるようになっただけ復活したほうだと自分でも思う。その話を聞いた直後なんて放心して午後の授業なんて何も覚えてない始末だ。


「そんなことよりお前は進展あったのかよ~!」

ニヤニヤしながら大雅は僕の脇腹をつついてくる。


「うるさいなぁ…相変わらずただのクラスメイト止まりですよーっ」

そう。告白の話を聞いた後、大雅に愚痴ってつい告白することまでぽろっと言ってしまったのだ。


「いーかげん連絡先ぐらい交換してもいいと思うけどなぁ」


「そんな勇気があったらもっと早くやってるよ!用事もないのに交換するのも変だろうし。」


勇気云々もそうなのだが、自分では釣り合わないと思ってしまっているのが一番大きな理由なのだろうとわかっている。簡単に言えば中川春香さんは高嶺の花なのだ。

彼女はきれいな黒髪のロングヘアーで成績優秀、いつも笑顔で学年のアイドル的存在だ。反面自分は成績だって悪くはないが中の上くらい、容姿だって特段優れているというわけではない。

それでも高校3年からは変わろうと決めたんだ。


「しっかりしろよ~、来年には卒業しちまうんだぞ~」


「わかってるよそんなこと…!僕のことを心配してくれるのはありがたいけど自分のことも考えろよ!」


僕は考えたくない事実から目をそらしたくて強引に話題を変える。


「あ~…あおいのことか…」


「そうそう、小倉さんのことだよ」


小倉あおいとは大雅と幼馴染で、大雅自身は気づいてないが小倉さんは大雅のことが好きなんだというのは学年みんなが知っている。逆に大雅も小倉さんのことが好きということは彼女以外はみんな知っている。ようは両方とも片思いだと思っているというわけだ。


(さっさとくっつけばいいのに…)


と思うが幼馴染の関係というのがどうやら足を引っ張っているらしい。どう煽ってやろうかと考えていると…


「いーんだよ俺のことは。もう帰ろうぜ」


「…わかったよ。ただ帰りに本屋によってもいいか?」


「相変わらず本好きだなお前。仕方ねぇなぁ」


踏み込みすぎたかなと反省しつつ僕もこれ以上話を広げられるのも恥ずかしいのでさっさと帰ることにした。

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『しっかりしろよ~、来年には卒業しちまうんだぞ~』


大雅の言葉が次の日になっても頭から離れずにいた。そのせいもあってか授業が全く頭に入らずに古典の授業の板書を写し損ねてしまった。


(はぁ~…なにやってるんだ僕は…まぁあとで誰かに写させてもらえばいっか)


そんな感じで授業に集中できないままHRまで終わり、放課後どうしようかと教室で考えていると担任に呼ばれた。


「小野寺、ちょっと一緒に職員室までプリント運ぶの手伝ってくれないか?」


「え~…まぁどうせ暇だしいいですよ。」


断る理由もなかったので先生に頼まれたプリントをもって教室を出ようとしたとき。視界の端に映ってしまった。中川さんがクラスの男子と話しているのを。

普通の世間話だろうというのはわかるし、自分だって女子と話さないわけではない。それでもどうしよもなく嫉妬心を感じてしまう。



(このままじゃ…だめだよなぁ…)


とは思うのだがなかなか踏み出せずにいた。


「いや~助かったよ小野寺!さすがにあの量はめんど…いや大変だったからな!」


「先生…本音漏れてますよ。まぁどうせ暇だったんでいいですよ。」

「それじゃここに置いとくのであとはお願いしますね。」


「おーう。ありがとうな~」


先生の声を聞きつつ職員室を出る。


(今日はそのまま帰ろうかな。)


荷物もいっしょに持ってきていたのでそのまま下駄箱に向かおうと廊下を歩いていると、前から中川さんが歩いてくるのが見えた。


「先生のお手伝いは終わったんですか?小野寺君」


「え…あ、あぁ終わったよ。プリント運ぶだけだったし…」


あぁだめだ。彼女と話すと目が泳いじゃうしオロオロしてしまう…いつもこんな調子でまともに話せたことがない。


「そうなんですね。あ、呼び止めちゃってごめんなさい。帰るとこだったんですよね?」


「あ、あぁそうだね…」


ここで別れたらこれまでと同じだ。なにか…なにか話題はなかったか…


「ん…どうしました?小野寺君。」


「あ、あの…きょ、今日の古典のノート、写させてもらってもいいかな…?あ、あと少し時間がかかるかもしれないからLINE交換してもらってもいい…かな…」


とっさに話し出していた。正直頭は真っ白だったし連絡先の交換も他の理由なんていっぱいあったと思う。最後のほうとかは恥ずかしくなって聞こえてたのかもわからない。


「………」


急にしゃべりだしたのにびっくりしたのか少し目を丸くさせてからクスッと笑ったと思うと。


「いいですよ、古典のノートと連絡先ですね。」


と言ってノートを出して渡してくれたあと、連絡先を交換した。

僕が半分放心状態のまま従ってると彼女が少し意地悪な笑みを浮かべて言った。


「ノート汚しちゃだめですよっ。汚れてたらいつでも連絡しちゃいますからね。」


と言い残して彼女は行ってしまった。正直嬉しすぎてこれ以上しゃべれなかったし、彼女の可愛すぎる仕草にドキッとして顔がにやけてただろうから行ってくれて助かった。


僕だけになった廊下で落ち着きを取り戻すように深呼吸をする。

真っ白だった頭がようやく今起こったことを理解して顔が熱くなってくる…


(連絡先交換しちゃったーー!!)


真っ赤になった顔を隠すように下を向きながら急いで校舎を出るため駆け足になる。これ以上校舎に残ってもし中川さんに会ったら今の出来事がフラッシュバックして僕は彼女の前にすら立てないという自信があった。


「…今日はなかなか眠れなそうにないなぁ」


帰り道ではにかみながら無意識にぼやていた。















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